感な彼への詩曲 

 

 

 いつも隣にいる貴方

 

 いつも私に微笑んでくれる貴方

 

 いつも私を守ってくれる貴方

 

 

 貴方は知っているだろうか?

 

 貴方がいてくれたお陰で、私の心にも温かみが宿ったことを

 

 恥ずかしいから私の口からは言えない

 

 だから、貴方は一生このことは知らないだろう

 

 それでいいと思う

 

 だって、私は貴方がいてくれるだけで十分なのだから

 

 

 

「やっ、クラレット」

 不意に声をかけられて、私はふり向く。

 突然、顔が赤くなるのが自分でも分かる。何せ、先ほどまでその人物のことを考えていたのだ。

 恥ずかしさからか、私が返す声は思わず小さくなってしまう。

「は、ハヤト…どうしたんですか、こんな時間に?」

「いや、さ。 クラレットが屋根の上に昇っていくのが見えてさ」

 それでつい付いてきちゃったんだよ、と照れ笑いしながら話す彼。そんな彼の言葉が私を嬉しくさせる。

 私を追いかけてきた、というのは私と話がしたいととってもいいのだろうか。

 

「…あの、ですね」

「うん、何?」

 高鳴る胸を押さえて、一、二度、深呼吸する。

「私、貴方と出会えてよかったと思います」

「そうだなぁ…俺もクラレットやリプレ、ガゼル、フラットのみんなやこの街で出会った人々…出逢えて良かったなと思うよ」

 そう言ってにこりと笑う彼。

 きっと私が言った本当の意味なんて分からないだろう。彼は人一倍他人に気を遣うくせに、こういう感情にはどうしても疎いから。

「そう、ですね…」

 すこし落胆するが、そんな彼に私は救われたのだ。だから、すこしだけ嬉しくもあった。

 そんな私の気持ちを知ってか、知らずか、彼は口を開く。

「俺、思うんだよ。

 もし君たちに出逢えてなかったら、今の俺はなかっただろうなって」

「そうなんですか?」

 我ながら間抜けな質問をするなと、言ってから後悔した。もっと上手い質問の仕方というものがあるだろうに。こう簡単な言葉で聞かれたら答えにくいというものだ。

 

 しかし、彼は差して気にしていない様で、彼は少し考えると私の質問に答えてくれた。

「…ああ、そうだよ。

 ココに来て様々なことを学んだ。特に自分の生き方には考えさせられたかな?

 色んな想いがここにはある。そして、その数だけ様々な人間にいるってことを」

 

 そう語る彼の横顔を、私はずっと眺めていた。そう言われると、彼もずいぶん変わったように思える。

 最初に出逢った頃は、ただ感情に任せて行動することが多く、どんなことでも楽観視しすぎていて、それこそ当初は彼に苛立ちさせえも覚えたほどだった。

 

 しかし、今ではそんなことはなく、自らの持っている誓約者としての力を自覚し、自重しかつ私を守ってくれる存在となっていた。

 

 

 彼は強くなった。

 だが、私はどうだろうか?

 彼らと過ごしていくうちに、彼らは私にかけがえの無い『絆』というものを与えてくれた。

 だがしかし、私はその『絆』に甘えているのではないだろうか?

 いつも彼に守られるだけの存在。

 

 

 と、そんな考え事をしていたからか、私の顔は険しくなっていたみたいで、彼が横から私の顔を覗き込んでいた。

 再び私の顔が紅潮する。誰かが後ろから彼を押せば、お互いの唇が触れるほどに、彼の顔がそこにはあったのだ。

 

「…どうかした、クラレット? ぼうっとしちゃってさ?」

「い、いえ! なんでもありませんっ!?」

 紅潮した顔を急に元に戻すこともできず、私は思わず彼から目線を逸らした。

「ただ……私は強くなったのかな、って。

 もし貴方が傷つき倒れたら、私は果たして泣かずにいられるだろうかとか、

 もしフラットのみんなが居なくなったら私はどうやって生きていけばいいんだろうとか、

 こんなことは、貴方たちと出会うまでは感じなかったんです。

 もしかしたら、私は逆に弱くなってしまったのかな…って最近思うんです」

 すると、彼はくすっと笑みをもらした後、空を見上げて語りだした。

「…たしかに、ね。

 俺はそんなことは思ったことがないけど、そう言われればそうかも。

 俺なんて、フラットなしの生活なんて考えられないしなー。

 だけどさ、俺たちがこうやって戦えるのは、こういう帰るべき場所があるからだと思うんだよ

 リプレたちがここを守っているからこそ、ね」

 ひとしきりそういい終えると、彼はこちらを向いて微笑んだ。私も彼につられて微笑んでしまう。

「そう、ですね…」

「そういう意味ではリプレに感謝しなくちゃな」

 

 

「・・・あの!」

 再び彼の口から出た言葉が気になり、私の口からは思いがけない言葉が出てきてしまった。

「は、ハヤトは、リプレのことどう思っているんですか!?」

「……えっ?」

 

 私も案外と考え無しに行動してしまうらしい。こんなことを訊ねたら、告白しているのも同然だ。

 私は慌てて赤くなっている頬を両手で挟み、俯いてしまう。

「リプレ? しっかりしてていいんじゃないかな?

 俺は好きだよ。

 リプレもクラレットも、ガゼルもエドスもレイドも、モナティも…皆好きだよ?」

 

 『好き』という言葉が出てきた時にはドキリとしたが、その後の言葉を聞いて、やはりハヤトだな、と改めて思った。

 この人の鈍感さは死んでも直らないだろうなとも。

 

 ホッとしたような、ガッカリしたような、そんな気持ちにさせられてしまうが、これでいいのだと思う。

 こんな困惑した気持ちもまた心地よいものだから。

 

「だからそんな大好きなみんなを守りたいんだよ

 こんなこと思うのは、傲慢かもしれないけどね」

 苦笑しながらそう話す彼。私は黙って首を左右に振る。

「そんなことありませんよ。

 少なくとも私は貴方の考え方は素敵だと思います。

 たとえ、それが間違っていても」

 するとどうしたのか、再び彼は苦笑を浮かべる。

「それってフォローになってないよ、クラレット。

 でも、ありがとう」

「あっ、そうですね」

 私たちはどちらからとも無く笑いを溢して、微笑みあった。

 

 

「さて、と…すこし夜風が寒くなってきたから中へ入ろうか?」

「あ、はい、そうですね」

 彼は立ち上がって、ズボンの裾を払うと下へと続く階段へと歩き出す。

 

 言うなら今だ

 

 私は勇気を出して、言葉を紡ぐ。

 

「ハヤト!」

「えっ…?」

 彼は私の声を聴いて後ろを振り向く。

「私は…! 私は! 貴方がどこへ行ってもついていきますから!

 だから、一緒にいさせてください!!」

 

 はー、はー…、言っちゃった……

 

「あ、ああ…俺たちはいつでもクラレットと一緒だよ。リプレもガゼルも――…みんな」

 予想通りの返事に私は呆れのため息を吐き出す。

「はぁ…」

「どうしたんだよ、クラレット?」

「なんでもありませんよ。さあ、中、入りましょう?」

 私は彼の背中を押して階段へと進む。

 

 

 まだ時間はたっぷりある。 勝負はこれからだ。

 

 恋焦がれる少女は、鈍感な王子を相手に今決意を新たにした。

 

 

 

 

 

〜夜中〜

 少年はベッドに寝転がりながら、先ほどのことを思い出していた。

「やっぱり、さっきのクラレットの言葉は……」

 少年はそこまで口にして顔を真っ赤にさせる。

 彼は彼女が思っていたほど鈍感ではなかった。彼が発した言葉はテレを隠すためのモノだった。

「あ〜あ、俺って結構損する性格かもな」

 少年は自分自身が情けないと思いながらもその目蓋を閉じた。

 

 

あとがき

 リサイクル品その5。ハヤクラ。

 自己脳内設定である「ハヤトは鈍感」という定義を覆したSS。(そんな大層なモンでもない)

 ちなみにクラレさんの「はー…はー…言っちゃった」という下りは某FE漫画のアゼル君のセリフから。

 にしても、本当に損な性格かも、このハヤト。

 

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