解と燥と

 

 

 

「ふぅ〜…、本当にこれ全部片付けるのか〜?」

「そうですよ。ほら、そこの箱を取ってください。」

「はいはい…。」

 

 ハヤトとアヤは今、屋根裏部屋へと来ていた。

 今日は大掃除。

 屋根裏部屋の掃除を兼ねて、ここにまだ使えそうな物がないかどうか見ているのだ。

 もしあったのなら、修理して使えばいい。

 ただでさえあまり裕福とはいえないフラットの家計事情。

 それに大きく貢献できることだろう。

 

 

 一方、トウヤとナツミは庭の掃除をしている。

 何か面白いことが起きているのだろう。外からはしゃぎ声が聞こえてくる。

 

「そういえば、クラレットたちは何処にいったんだ?」

「リプレさんのお使いに行っているそうですよ。 お昼をつくるからって言ってましたから…」

「そうなのか!? よし、それじゃもっと頑張るか!」

 ハヤトは腕まくりをして、積み重ねられた物の山をどけはじめた。

「…全く、現金なんですから」

「だって、リプレの料理が食べられるんだから、これを頑張らないわけにはいかないだろう?

 綾も楽しみにしてるんじゃないのか?」

「それは…そうですけど」

 アヤは、呆れたようなため息をつきながら、彼に続いて片付けはじめた。

 

 初めの頃…といってもリィンバウムにくる前のことだ。

 まだ彼らが同じクラスになったばかりの頃は、ろくに喋ることもなかった。

 あまりにも自分とは違う人間だったのだ。

 そんな二人だから、どちらからとも話しかけてくることはなかった。

 

 ふたりとも校内では有名人なのに、そのふたりが話をしないというのは、今思うと可笑しくなる。

 それがどうしたことか、今ではこうして同じ作業を楽しく進めている。

 

「…そういえば、さ。リィンバウムに来る前のことだけど」

「はい」

 作業を進めながら、ハヤトの話に静かに頷くアヤ。

「俺たちって全然話をしてなかったよな。同じクラスメイトなのにさ」

「ふふっ、そうですね。」

 どうやら相手も自分と同じことを考えていたようで、思わずアヤは笑みを溢した。

「なんだよ…? なんかおかしいこと言ったか、俺?」

「いえ、こちらのことですよ。…さあ、仕事を進めましょう」

 アヤはなんでもないと首を横に振り、ハヤトの仕事の手を促すように言った。

「ああ。 よっこらせっと……」

 ハヤトは頷くと、山積みされたうちの一つをその山のなかから引き抜こうとする。

 しかし、これがなかなか奥に入り込んでいるようでなかなか抜くことができない。

 それを見た、アヤが彼を止めようと慌てて近づいた。

 

「は、勇人くん!そ、そんなところを引き抜いたら…!」

「え?」

 

 

 

 

 

 彼女がハヤトを止めた時にはもう遅かった。

 

 

 

「うわぁ!」

「きゃあ!」

 

 彼が引き抜いこうとしていたところに無理な力を加えたことがきっかけとなってしまい、山はぐらぐらと揺れなだれが起きてしまい、勿論、それらにふたりは巻き込まれることになった。

 

 

 

「あいてて…!」

「………………ッ!!」

 

 

 ハヤトは頭を抑えながらゆっくりと瞼を開ける。

 痛みはするものの、そんな大事には至らなかったようだ。

 

 別にそれは問題ではない。

 問題なのは、彼の視界に入り込んできたモノである。

 

 

 

 それは真っ赤になったアヤの顔のアップ。

 それを確認したとき、初めて彼は自分の右手と唇に違和感を感じた。

 

 そしてハヤトは気がついた。

 自分がどういう状態でいるのかを。

 

 右手は彼女の胸に、唇は相手のそれに。

 これでは、誰が見ても彼が彼女を襲っているにしか見えないだろう。

 

 ふたりとも石となってしまい、動くことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 と、その時、屋根裏に続く階段を上ってくる靴音が聞こえてくるのを彼らは気がついた。

 しかし、感知するのが遅すぎた。

 

「何かあったんですか?ハヤト、アヤ?

 先程、上の方で何か聞こえた…んです…が!?」

 屋根裏部屋に上ってきたのはクラレットであった。

 そして、目の前の光景を目撃した彼女の表情は心配から驚愕、そして憤怒の顔へと、面白いほどにころころと変化した。

 

「…何をなさっているのです?」

 静かだが怒りを含んだ言葉をハヤトに投げかける。

 しつこいが、もう一度第三者から見た光景を言おう。

 

 お互い抱き合いながら接吻をしている。

 ハヤトの手はアヤの胸へと伸びている。

 

 すなわち――……

 

 勿論、クラレットの目には彼らの姿がこう見えた。

 もちろん、こんな光景を見たら誰もがそう思ってしまうだろう。これが事故だと説明する方が難しい。

 

 その時になってやっとハヤトは、アヤの体から身を離した。

 

「ち、違うんだ!こ、これは!」

「いいんですよ?言い訳しなくても二人で仲良くしてくだされば。

 別に私には関係ありませんしね。」

 にっこりと微笑むクラレットだが、怒りのオーラが出ているのが目に見えた。

 何気に【闘気】を形成しているように見える。

「じゃあ、邪魔者は消えます。

 …ゆっくりとお楽しみください!」

 そんな捨て台詞を残して、クラレットはどすどすと音を立てながら階段を下っていった。

 

 

「…ど、どうしよう!?」

 ハヤトが心配するのはクラレットのことだけではない。

 これがアヤにぞっこんなソルに知られたら…彼は翌日にアルク川に浮いているだろう。

「…困りましたね」

 その言葉とは裏腹に、アヤの顔はのほほんとしている。むしろこの状況を楽しんでいるかのようにも見える。

「ホントにそう思ってる?」

「ええ。別に勇人くんに襲われたとかは決して思ってませんから♪」

「……思ってるんじゃないか」

 にっこりと微笑んで、答えるアヤに、ハヤトは深いため息をつき、がっくりと肩を落とした。

「でも、悪かったよ。

 事故だとはいえ…あんなことしちゃってさ」

「いえ、本当になんとも思ってない……ことはないですが、不可抵力だということは分かっていますから。」

「ありがと」

 力なく微笑むハヤト。

 それを見て少し頬を朱に染めるアヤ。

 彼女は少しだけ、本当に少しだけ、先程のキスを思い出していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アヤの方は、解決したから…あとはクラレットだな…。

 ソルに知られてなきゃいいけど…。

 早く誤解を解かなきゃ…)

 その時、ハヤトたちは、何も知らないリプレに「ご飯できたわよー」と呼ばれ、階段を下りた。

 

 そしてリビングへ。

 他の仲間はすでに揃っており、あとは二人が席に着くのを待つのみだ。

 クラレットは故意なのかどうかは分からないが、ハヤトから視線を外している。

 ハヤトが席に座ろうとすると、クラレットが口を開く。

「あら…、ふたりで下りてきたんですね。

 本当、仲のいいことで」

 クラレットの鋭い言葉がハヤトへと深く突き刺さり、心をえぐった。

 勿論何も知らないはずの他のメンバーは、不機嫌そうなクラレットを見て、疑問符を頭に浮かべるばかりである。

 しかし、その言葉に反応した人物がいた。

 先ほども述べたアヤにベタぼれな次男ソルであった。

 

「『仲がいい』って、ど、どういうことだ! 姉さん!?」

「実は……」

「はいはい、ほらハヤトとアヤも来たことだし、さっさとお昼を食べちゃいましょ!」

 リプレは知ってかしらずか、クラレットの言葉を遮るかのように口を開き、それはうやむやになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 食後のあと、何も言わず自分の部屋へと向かったクラレットを見て、思わずハヤトは彼女を追いかけていた。

「ま、まってくれ!クラレット!」

「イヤです。」

 クラレットは歩くスピードを上げる。

「だから誤解なんだってば!」

「何が誤解なんです。

 貴方とアヤが抱き合って、その…き、きすをしていたところを見たんですから!」

 

 クラレットは顔を紅潮させながら、さらにスピードを上げる。

 

「だから…」

「聞く耳は持ちません!!!」

 彼女は大きな音を立てながらドアを閉め、部屋へと入ってしまった。

 ハヤトはそのドアをドンドンと力強く叩く。

「開けてくれ! クラレット!」

 

「……なただけは……のに。」

「へ?」

 わずかにドアごしに聞こえる彼女の声を聞き取ろうとして、彼はドアを叩くのをやめ、耳を澄ます。

「…貴方だけは信じていたのに」

「だから…!」

 ハヤトは反論しようとするが、クラレットはまるで彼の言葉を拒絶するかのように、彼よりも大きな声で話した。

「分かってるんです!我が侭なのは分かっています…。

 貴方が誰と仲良くなろうと貴方の自由なんです。

 でも…貴方が他の女の子と仲良くしていると、胸の中にもやもやしたものが生まれるんです。

 私が貴方を独占できるとは思っていません。だけど、そうできたらいいと願っているんです。

 ごめんなさい…。私を醜い女だと思ったでしょう?

 いいんです…、もう……いいんです…」

 クラレットの話す声は、次第に小さくなり、話し終えたドアの向こうからはぐずぐず彼女の泣く声が聞こえる。

 

「だから! 誤解なんだってば!

 俺が屋根裏の置物を取ろうとしたら、山積みされてた置物の山が崩れ落ちてきて、偶然あんな体勢になったんだって!」

 ハヤトはクラレットに声が届くよう、必死で叫ぶ。

「本当…ですか?」

「本当だって! 頼むから、信じてくれよ」

「なんだ…そう、だったんですか」

 クラレットは力が抜けて、ドアにもたれながらずりずりと腰を落とした。

 

 しばらくすると、クラレットは部屋から出てきた。

「本当にごめんなさい…貴方に迷惑ばかりかけて…。」

 部屋から出てきた彼女はすまなさそうに、頭を下げ素直に謝った。

「いや、俺がクラレットの立場だったら、って思うとやっぱり仕方がないなと思うし」

「それって…。」

「まぁ、そういうことだよ。」

 ハヤトはふいにクラレットの視線から逃げるかのように真っ赤になった顔を背ける。

「だけど、今度からはちゃんと人の話を聞いてくれよ?」

「はい。でも……」

「ん?」

 何か言いたそうなクラレットの表情をみて、首を傾げるハヤト。

 

「でも、アヤに…したのは事実ですよね?」

「うっ、そりゃ…事故とはいえ…でも、綾は許してくれたぜ?」

「アヤが許しても私が許しません」

 きっぱりと彼女の口から出てきた言葉は、ハヤトを困惑させ途方に暮れさせるばかりである。

「なら、どうすりゃ許してもらえるんだ?」

「許して欲しかったら……アヤと同じことを私にしてください…」

 羞恥からか、頬を紅潮させながらクラレットはハヤトに告げた。

「え…?」

 一瞬呆気に取られる彼。

 しばらくクラレットは黙っていたが、そんな彼にもどかしくなったのかつっかえながらも言葉を紡いだ。

「だ、だから!わ、私に……そ、その…キ、キスをしてください!」

「く…クラレット…」

 彼女の言葉を聞いて、ハヤトは逡巡するがしばらくすると、彼は身を強張らせながら、彼女の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 彼が彼女にキスしたかどうかは、また別の話で。

 

 

 

あとがき

 リサイクル品その6。バカップルネタ。一応、ハヤクラ。

 ギャグにもほのぼのにも成り切れなかった成れの果てがここに(笑

 やっぱりここでもクラレさんが押しに押してます。

 ちなみにアヤさんは、ハヤトのことを仲間以上恋愛対象未満のように思っている…という設定です。

 ソルはそんなアヤさんにベタぼれ。まぁ、本人が鈍いので自分でも自覚しているのかどうかアヤシイところですが。

 

 

 

 

 

 

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