armony 

 

 

 

 

 

 彼らから出会ってから2年が経った。

 私は相変わらず、城の仕事に追われていた。

 気がつけば、今年で17に……彼らがこの世界に来た歳と同じになる。

 だからといって、特別な感情が浮かび上がってくることはないのだが。

 

 

 

 

「…?この音色は…?」

 私が街の見回りしていて、丁度川の辺りを歩いていたときのことだった。

 ふと、川のほとりの方から、綺麗な音色が聞こえてくる。

 私は、その音色に誘われたかのように、ほとりへ近づいた。

「あっ、お仕事ですか?」

 狩人の少年――スウォンがこちらに気がついたらしく、彼のもとへ私は歩み寄った。

「ええ…それよりもこの音楽は…?」

「これは、父さんが昔よく僕に聞かせてくれた曲なんです。僕が生まれる前、母さんと一緒に歌ってたって…。ちゃんと唄もあるんですよ。」

 そういうと、スウォンは楽器を鳴らしながら、歌い始めた。

 彼の綺麗な歌声が空に響き渡る。

 

 

 

「…と、大体こんなものですかね」

 スウォンはふっ、と微笑んだ。

「私にそれを教えてくれませんか?」

 気がついたら、私はこんなことを口走っていた。自分で気がついた時には既に遅く、彼はニコニコとして、頷いた。

「え、いいですけど。なら一緒に歌いますか?」

 

 なぜ、あの時、そんなことを言ってしまったのか。今でも不思議でたまらない。

 もしかしたら、あの歌声に聞き惚れてしまったからなのだろうか。

 

 

「え、でも…私、歌下手ですけど……」

 自慢して言えることではないが、私は滅多に歌なんか歌わない。仕事には関係ないのだし。もし音痴だったら彼の前で恥をかくだけに終わってしまう。

 羞恥心で、顔を真っ赤にしいながらも、彼は有無言わさないような笑みを浮かべて口を開く。

「大丈夫ですって。そもそも、歌は歌う人が多いほど楽しいものですし。じゃあ、行きますよ」

「ちょ、ちょっと――」

 戸惑う私を、まるで無視したかのように、彼は歌いだした。 私は、慌てて彼のあとを歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な気分だった。

 心が空に舞い上がって、自由に空を飛ぶような――

 そんな感じだった。

 あまり歌を歌ったことがない私には歌なんか興味が無かったのだが、

 彼の歌声を聞くと――――

 

 

 

 

 

 

 

 歌い終わった後、私は一息つく。

「下手という割りには、上手いじゃないですか。」

 彼はこちらに振り向き、にっこりと微笑む。

 私はそんな彼にどう反応したらよいのか困ってしまい、思わず赤面してしまった。

 そんな私を楽しそうに見ている彼をみて、私は少し頭にきた。

「何が面白いのですか?」

「いや…なんでもないですよ。

 平和っていうものは、こういうものなんだなぁって。…少し、あの時のことを思い出してしまいましたよ」

 彼は、空を仰ぎ、目を細めている。

「そうですね。…大変でした。

 貴方たちが色々として仕出かしてくれたお陰です。

 あの眠り病のときだって、イリアス様に迷惑かけてくれましたよね?

 あれから大変だったんですよ? 騎士団長とはいえ、貴族の方たちから大不評を買いましたからね」

 淡々と述べていく私に、彼は慌てて声をあげて、私の言葉を遮った。

「そ、それは、仕方がないじゃないですか!

 あの時だって、フラットの子供たちが大変だっていうから仕方がなかったですよ!」

 一生懸命弁解をする彼に、私は追い討ちをかける。

「でも、加担したことには、かわりないでしょう?」

「そ、そうですけど!…随分と意地悪ですね、貴女も」

 彼は少し憮然とした複雑な表情でこちらを一瞥したあと、軽いため息をついた。

 

「そうですか?」

 私はわざと不思議そうに首を傾げてみせる。

「初めて出会ったときは、全然無愛想でしたし」

「…酷い言われ様ですね。」

「ふふっ、先ほどの意地悪のお返しですよ」

 彼は軽く背のびをすると草むらに寝転がり、一面に広がる青空を眺めた。

「…こんなに天気がいいと眠たいですね。」

 そう言う彼に私は静かに肯定の頷きをかえした。

 

「そういえば、近々結婚するそうですね、ラムダさんとセシルさん」

「ええ、我が騎士団も式で祝うことになってます」

「イリアスさんやレイドさんの先輩でしたね。だから、ですか…」

 すると突然彼は起き上がり、何かを思いついたようにぽんと手を叩く。

「あっ、そうだ!式のとき、先ほどの歌、二人に贈りませんか?」

「『贈りませんか?』って…私も歌うってことですか?!」

「ええ、そうですよ。」

 満面の笑みを浮かべる彼に対して、私は顔をひきつらせるしかほか無かった。

 ただでさえ歌うことが無い私に、人前で歌えと、この青年は言うのだ。

 …こんなことなら、歌を習うんではなかった。

 

「いいじゃないですか。せっかくの二人の門出を祝うんですし。」

「…考えておきます。」

 曖昧な返事をしながら、私は笑みを浮かべた。

 

 

 気がついたら、もう夜になっていた。

 よく、こんなにも話し込んだものだ。

 しかしイリアス様も相手がスウォンだったら苦笑しながら許してくれるだろう…恐らく。

「では、私はもうそろそろ、仕事に戻りたいと思います。では……」

「ええ、気をつけてくださいね。いくら騎士だからって、貴女も女性なんですから。」

 私はその言葉を言われた瞬間、顔が真っ赤になるのが分かった。

 あまり、騎士団のなかでは女性扱いはされないので、こうされることが嬉しかったのかもしれない。

「……では」

 私はあまり、彼に火照った顔が見られないように、別れを告げ城へと足を向けた。

 

 

 しかし、彼が心配してくれるのも、最もだと思う。

 街の中とは言え、物騒なところも多い。

 昨日も殺傷事件が起こったばかりだ。……勿論、犯人は捕らえたが。

 私は、それを踏まえて少々の不安を抱きながら、見回りを済ませていない繁華街から北スラムへと歩いていった。

 

 

 しかし、その不安は当たってしまった。

 

 

 

 殺気を感じる。

 

 

 

「………ッ!」

 私が辺りを振り返ると同時に数人の男が物陰から現れ、私を囲む。

「よぉ、騎士様がこんな夜遅くに出歩いてちゃ駄目だぜ?」

 見るからに下卑た男ばかりだ。

 おそらくオプテュスの残党だろう。

 彼が居なくなってから、オプテュスのメンバーはばらばらになったとはいえ、北スラムにはまだ悪党がたくさんいる。

 

 つまり、油断していたというわけだ。

 

 

(どうしたものか…)

 私は心のなかで、舌打ちした。

 いくら騎士だからといって、この状況では大勢に無勢といったもの。しかも、弓は今は持っておらず、使い慣れない護身用のノヴィスソードしか持っていない。

 

「…私に何か用ですか?」

 私は冷静を装い、彼らに尋ねる。

「おおありだとも!よくも、俺たちの仲間をしょっ引いてくれたな!

「それは、あの方が犯罪を犯すから、捕まえているだけです。」

 おそらく彼が言っているのは、おそらく彼の仲間であろう先日の殺傷事件の犯人のことだろう。おおかた敵討ちといったところだろう。

 職業柄、こんなことは日常茶飯事とはいうほどではなくとも、何度もこういう目にはあってきた。

 

 

 

 私の態度に頭にきたのか、彼は懐から刃物を取り出した。

 

「このアマぁ!!野郎どもやっちまえ!!」

 それを合図に、周りの男たちが、私に襲い掛かってくる。

 

 

 私は迷わず、リーダー格である男に突進する。

「はあぁぁぁあああッ!」

 男の懐に飛び込んだ私は掌打を男の腹部に打ち込む。

「…知っていますか?弓も剣も、元々は武道から来ていたんですよ。」

「があッ…!」

 男はそのまま、後ろに倒れこむ。

 そして、私は踏み出した足に力をいれ、身体を反転させる。

 私を狙って、別の男が真正面から襲ってくる。

 私は力を入れた足とは違うもう片方の足を軸にして、ハイキックを男の顔に打ち込む。

 

 男は横に吹っ飛び、さらに他の男が横から迫ってくる。

 気づいた私は横に跳びかわそうとしたが、全ては回避しきれず、男の振り下ろされた剣が、チッ、と私の髪の先を斬る。

 

男たちも無理に突っ込むのは無駄と分かったのか、私と距離を置く。

 

 と、背後から男がにじり寄ってくるのに、私は気がついた。

「このぉ!」

「ハッ!」

 ふり向きざまに腰の鞘からノヴィスソードを抜き、男の腹部を斬り、彼はドサッと音をたてて崩れる。

 いくら一般に出回っている切れ味が悪いこの剣でも、力いっぱい振るえばメイルの上からでも相手を吹き飛ばすほどの威力はある。

 

 

(あと3人……)

 

 

 

「…チッ!なかなかやるな…。

 おい、お前ら!捕まえておけ!」

「「おう!」」

 男の一人が私を捕えるように他の二人に命ずる。

 

(まずい!)

 

 1対1が3回繰り返されるのと、1対3で戦うのでは全然危険度が違う…。

 

 

「や、止めなさい!!」

「くっ、この…大人しくしやがれ!!」

 男たちが必死に私を取り押さえるのに対して私はそれから抜けようと試み、抵抗するが男と女では力の差があった。

 

 そして、命令した男がこちらに歩み寄ってくる。

「くくく、観念してもらうぜ?

 お前の首を城門に放り投げてやっておくからよ!」

 下卑た笑いが私の耳に入ってくる。

 男は剣を振りかぶると、口の端をつりあげ、呟いた。

「じゃあな」

 

(もう…ダメ!!)

 

 私は覚悟を決め、唇を結ぶ。

 男の剣がふり下ろされた……ハズだった。

 

 

 

 

 

 ヒュッ!

 

 

「ギャアアア!」

 何か空気を裂くような音がしたかと思うと、狂わんばかりに断末魔を叫ぶ男の声が耳に入る。

 

 

 

 

 ふと、ふり向くとそこには………

 

 

 

「スウォン!!」

 

 

「大丈夫ですか!?」

 スウォンは慌てて私の方へと駆け寄ってくる。

「テメェ!邪魔する気か!!?」

 私を押さえつけていた男の一人がスウォンに胸座を掴む。

「ええ…。

 その人は僕の仲間ですからね。」

 スウォンがにっこり微笑んだかと思うと、次の瞬間鋭い目つきになった。

 

 

「だから、その薄汚い手を彼女から離してくれませんか?

 ……でないと、その命、落とすことになりますよ?」

 

 

 ふと気がつくと、男の首もとに細い短剣のようなものを突きつけていた。

 

 

「ひ、ひぇええええ!!」

「お、おい、待てよ!!」

 男たちは、情けない声をあげながらあっという間に逃げ出していった。

 

 

 

 

 

「ふう…、あまりああいう方法は取りたくなかったんだけどなぁ…。」

「スウォン…どうしてここに……?」

 スウォンは私の手を引っ張り起こしあげ、ぱっぱっ、と私の服についた埃を払ってくれた。

「なんだか、気になって…。それよりも!」

 優しげな表情を一変させ、なんだか怒ったかのような顔をする。

「あ・れ・ほ・ど!『気をつけてくださいね』って注意したじゃないですか!」

「…すみません」

 私は素直に謝った。

 確かに油断していたのだし、こうして危ない目にも遭った。

 しかし、これほど怒られるとは思っても見なかった。

「いえ、貴女が無事でしたらいいんですよ。

 …でも、これからは気をつけてくださいね?」

「はい…」

 

 

 

 

「そういえば…スウォン、背伸びましたか?」

 スウォンに城まで送ってもらう途中、彼と並んで歩いているとふと気がついた。

 私の背は彼の肩ぐらいまでしかない。

「そうですね…。2年前は貴女と同じぐらいでしたもんね。」

 

 彼は月を見上げながら微笑む。

 月光に照らされた彼の顔を見て、私は顔が赤くなるのを自覚した。

「……? どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもありません!」

 私はふいっと顔を彼からそらした。

 

「ところでその短剣は…?」

「ああ、これは…ガレフの骨を削って作った物なんですよ。

 僕の父さんを殺したコイツに助けられるとは皮肉ですね…。」

「そうですか…。」

 彼の父親については聞いたことがある。

 はぐれの影響によって凶暴化した獣に殺されたと。

 スウォンもその獣は操られたのを理解しているのだろう、

「ちゃんと感謝してますよ。…彼女を助けてくれてありがとう、ガレフ。」

 と優しくその短剣を撫でた。

 

 

「先ほどのあの歌、歌いませんか?」

「え!?」

 いきなり、スウォンはこちらに顔を向け、私を誘った。

「…どうしてですか?」

「いえ、なんとなく、ですね。

 こんなにキレイな満月を見ると、歌いたくなるんですよ。

 どうです?」

「……そうですね」

 私はそういわれて、夜空を見上げる。

 彼の言うとおり、キレイな円形の淡い金色を帯びた満月がうかんでいる。

 私はその美しさに吸い込まれそうになった。

 

「歌いましょうか」

 私が歌い始めると、少し遅れてキレイな彼の歌声がが続く。

 

 

 歌詞の内容は恥ずかしいものであったが、今スウォンといる私にとって、これほど安らぐものはなかったように感じられた。

 

あとがき

 リサイクル品その7。一応、スウォン×サイサリス。

 マイナーですけど、とてもお気に入りです、このふたり。戦闘ではふたりとも銃でバンバン敵をヤちゃってます(笑

 スウォンが奏でていたのはハープ状の楽器だと思ってください。そのため、歌えたと。(以前ツッコミがあったので一応)

 で、歌ですが、ご自由に想像してください。個人的にはグロランIのOP曲(女性ボーカルver.)。

 これを結婚式に歌うのかとか、ハープで弾けるのかという突っ込みはなしの方向で(ぉ

 あの歌、ノりやすいんですが、とても歌詞の内容が凄いです(笑

 

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