Kiss Kiss Kiss! 〜Love chain〜

 

 

 ある日のこと。

 レックスは散歩がてらラトリクスへと顔を出していた。するとそこには珍しい先客がいた。

「アラ、センセ。」

「スカーレル? 珍しいね、ここで会うなんて。」

 先客―スカーレルは何やらクノンやアルディラとお喋りを楽しんでいたようだ。

「クノンに貸していた本を引取りに来て、今クノンから感想を聞いてたところなの。」

「それって、『恋する乙女は竜をも殺す』っていう恋愛小説・・・?」

「センセ、知ってるの?」

 レックスはまあね、と苦笑いを浮かべて頷く。ただ単にクノンがその本を借りていたことを知っていただけなのだが。

 

 すると、クノンがその感想の語り始めた。

「とても興味深い本でした。

 この本の主人公の少女ですが、驚かされるぐらい行動力がありました。そう、例えば―少女が龍を殺す場面がありましたが、私のデータによりますと、この年代の女性の身体能力の面から、この行動は不可能に近いと思われます。いくら身体を鍛えているからといって、一人の少女がこうも簡単に龍という巨大な敵を倒すことはかなり困難を伴うと、むしろ返り討ちに遭われるのが普通です。しかし、そう表現することで逆に少女の想いの強さが引き立てることができていますね。コレについては賛否両論あると思いますが、私としてはプラスイメージで捉えたいと思います。コレを読んで、やはり人間の想いというものは深いのだと改めて考え直させられました。ああ、それから次の場面ですが・・・」

 

 無表情なまま、淡々と感想を述べていくクノン。それを聞いているレックスは呆然とするが、スカーレルは楽しそうに、アルディラは真剣に聞き入っている。

「―――というのが私の感想なんですが・・・スカーレル様、少々訊ねたいことがあります」

「アラ、何かしら?」

 スカーレルがクノンの顔を覗き込んで訊ねる。クノンは本のページをペラペラとめくっていき、とある挿絵が入ったページを開く。まぁ、なんというか、その主人公の少女が相手役の少年と愛の接吻を交わしているシーンである。レックスは、小説だというのに顔を真っ赤にさせている。

「唯一、理解できなかったのが行動です。

 コレが所謂接吻、またはキスと呼ばれている行為ですね。

 これはどういうときにされるものなのでしょうか?

 また、どういう効果が発揮されるのでしょうか?

 私には何かしらの意味があると思うのですが、どうなのでしょうか?」

 真っ直ぐ疑問を投げて掛けてくるクノンに、スカーレルは一瞬ぽかんとなるが、すぐに笑い声をあげる。するとクノンは少し憮然とした表情でスカーレルを睨みつける。

「ヒドイです。私はただヒトについて勉強がしたいだけなのに。」

「アッハハハ! ゴメンなさい。

 そうね・・・センセ、教えてあげたら?」

「な、ななっ!?」

 突然スカーレルに話を振られ、わたわたと動揺するレックス。すると、クノンが感心した声をあげる。

「それは名案ですね。

 レックス様・・・いえ、先生よろしくお願いします。」

「だ、ダメだよ! 俺、そういうことには縁遠いし!」

 慌てて首を横に振る彼に、アルディラがクスクス笑みを溢しながら助け舟を出す。

「そうね。そういうのは人から学ぶものでもないし・・・ましてやした事が無い人からなんて無理でしょう、クノン?」

 言うことは正しい、が、彼女の発言には嘘が含まれている。レックスはソレをしたことがないわけではない。それどころか、先日したばかりである。しかも彼女自身と。

 

 イスラとの決着をつけるその前日。夜空に浮ぶ月を見上げながらレックスは彼女と色々語り合った。お互いがお互い大切だということ。

 そしてソレは突然だった。彼女が彼に不意打ちをくらわせたのだ。勿論、彼女自身も恥ずかしかったが、こうでもしないと彼は彼女には手を出せないだろうと、考えていたからだ。

 

 さて、話は戻して。

 彼女は嘘をつくことで彼を助けようとした。が、それを許すほど甘い人物はいない。

「アラ、アルディラ。センセをあまり馬鹿にしちゃいけないわよ?

 センセだって今まで色々あったでしょうに。特にアズリアとか怪しいわよネェ?」

「「な゛っ!?」」

 レックスとアルディラは同時に驚きの声をあげるが、その『驚き』の意味合いが少し違う。レックスはそんなことを言われるとは思ってなかったという驚き。それに対しアルディラは…

(そんなことしてたの、彼女と?)

 ニッコリと微笑を浮かべたまま、そんな目線をチラリとレックスに送る。彼はそれが何を意味しているかぐらいはすぐに理解できた。いや、できてしまったと言うのが適当か。

 もちろん、彼は彼女にはそんなことをしてはいない。彼女とは親友だ。それ以上それ以下の関係ではない。もしそんなことを彼女にしようものなら、彼女お得意の『秘剣・紫電絶華』が返ってくるだろう。

 

「は、はは・・・。期待に添えられなくて残念だけど、彼女とはそんな関係じゃないよ。」

 レックスは乾いた笑い声をあげながら、スカーレルの意見を否定する。すると、彼はニマリと口の端をつりあげる。

「あら? ということは彼女とは別にそういう相手がいるってこと?」

「あ、な、何言ってるんだよ!」

 ずばり言い当てられて動揺しているレックスを面白げに観察するスカーレル。その相手が目の前にいるということがさらに彼を動揺させていた。

 と、クノンが不思議そうに首をかしげている。

「レックス様、心拍数が異常に上がっています。少し休まれた方がよろしいのでは?」

「あっ、いや、それは、べ、別に大したことはないよ。」

「油断禁物です。さあ、早くベッドに・・・」

 あはは・・・と乾いた笑みをうかべて誤魔化すレックスとそれを訝しげに見るクノン。そして、何故か顔を赤らめているアルディラ。

 スカーレルはこの状況を眺めて、なるほどと思った。

「クノン、心配御無用よ。センセも子どもじゃないもの。そこのところはセンセだって分かっているでしょ。それよりもクノン、外で話があるんだけど」

 何故か突然クノンを外に出るよう誘うスカーレル。その不審な行動にそこにいた誰もが不思議がった。

「話ならここで聞きますが・・・?」

「いいから、いいから!

 じゃ、センセ。よろしくやっちゃって!」

 スカーレルは理解不能の言葉を残しクノンの背を押して退室していった。

 

 取り残された2人は首をかしげ出て行く二人を見送った。

「一体なんだったんだろう?」

「さあ? でも、何か企んでいるのは確かね。クノンの言ってた通り話ならここですればいいでしょうし。

 さて――――それよりも」

「は、はいっ!?」

 アルディラの最後の一言に、びくぅっと肩を竦ませるレックスと、依然としてニッコリ微笑んでいるアルディラ。それが逆に怖かった。

「さっきの話は本当なのかしら?」

 さっきの話というのはもちろん、アズリア関係のことである。

「ち、違うって! それはさっきも言っただろ?」

「あら、そうかしら?

 彼女、私よりも可愛いし、素直だし。そうだとしたら仕方が無いけど・・・」

 どこか寂しげな笑みを浮かべる彼女。勿論彼女とて彼の言っていることは理解している。そしてソレが嘘でないことも。

 それでも彼女は不安なのだ。彼は人間、自分は融機人。たとえ彼と結ばれたとしても、彼の子どもを宿すことはできない。だから、彼は離れていってしまうのではないかと不安になってしまう。

 

 だから。

 

 突然アルディラはスッとレックスに近づき、彼の顔に両手を添え少し足のつま先を延ばし、彼の顔に自分のそれを近づけさせる。

「!」

「――――っ。

 私はずるい女だから。こうして貴方を捕えていないと不安になるの」

 彼女は頬を赤らめながら顔を彼から離した。レックスはというと、身体を硬直させたままであった。先日したといっても、恋愛関係には疎い彼には慣れないものである。

 だが、すぐに顔を綻ばせる。

「それでいいんだよ。

 俺も君以外の女性(ヒト)に捕まる気は無いから。

 君が俺を捕まえていてくれる限り、俺は君以外の女性に捕まらない。

 それでいいんだよ」

 すると、アルディラはますます顔の赤みを濃くさせた。そして恐る恐ると言った感じで口を開いた。

 

 

「――――私はしつこいわよ?

 貴方を絶対に逃しはしないんだから。」

 

 

 それに対してレックスは微笑んで応えた。

 

 

「それはもう覚悟してるよ。 君を好きになったその時から」

 

 

 すると、彼は彼女を抱きしめた。

 柔らかく、まるで包み込むように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 そんな彼らを覗く二つの影が扉の向こうにあった。

「ホラ、これがアンタの求めてた答え。わかったかしら?」

「・・・・・・今ひとつ理解不能です」

 喜々として覗き込むスカーレルと気難しそうな顔をしているクノンの姿がそこにはあった。

「まぁ、こればかりは自分で体験してみないと分からないわよねぇ」

「・・・・・・」

 スカーレルの言葉に沈黙してしまうクノン。不思議に思ったスカーレルは彼女の顔を覗き込む。

「アラ、どうしたの、クノン?」

「なら、してみましょう。」

 平然とした顔でさらりと言いのけた彼女。スカーレルは嫌な予感がしつつ、一歩二歩とあとずさる。

「な、ななな、なに言ってるのよ!?

 こ、こういうことは、ね! そうそうするものじゃないの!」

「しかし、やってみないことには何もわかりません。大丈夫です。すぐに終わります」

 さらにあとずさる。と、ドンと背中に冷たい壁が突き当たる。逃げ場はない。

 

「いやぁ!クノンが無理やり、嫌がるアタシをーっ!?」

 

 

 その叫びは壁に遮られ、向こう側にいるレックスたちには届くことはなかった。彼が無事彼女から逃れたかどうかはまた別の話で。

 

 

 

あとがき

ずっと前に書いたレクアル&スカクノSS。前者はともかく、後者はマイナーだよなぁとか思いつつ。

だって小説の貸し借りをしただけの仲だし・・・マイナーすぎて他にこのカプ好きはいるのか?という不安がつのるばかりです。

まあ、かくいう自分もこれを書いたときに、「あっ、結構いいかも、このカプ」って思ったのがきっかけなんですけども(笑

 

それはともかく、レクアルは本当ラブラブしてそーです。15話夜会話などなど。

のんびりとしたレックスにアルディラがモーレツにアタックをかける感じで、でもいざとなったらレックスが逆に攻めるみたいな、そんなところが、私的脳内ハヤクラ・マグアメカプと違うところデス。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送