夜回帰〜The Moonlight〜 

 それはある夜のこと。

 夜空には数多の星々が爛々と輝き、美しく光る月が浮んでいた。

 

 カザミネは何故か眠りにつけず、一人銀沙の浜へと散歩に来ていた。

 彼は何をするでもなく、ただその月を見上げるばかりであった。

 静かなるこの夜空が心を澄ましてくれるような気がした。

 

 

 ザー…ザー…

 

 

 

 浜辺にうってはかえす波の音を聞きながらずっとその夜空を見上げていた。

 

 

「………。」

 ふいに、背後から誰かが近づく気配を彼は感じ取った。

 しかし彼にはそれが誰なのかは、すぐに気配で分かっていたのだが。

 

「カイナ殿。どうなされました、こんな時分に。

 こんな夜更けに婦女子が外を出歩いていると危険でござるぞ?」

 まあ、エルゴの守護者が後れを取るようなマネはしないだろうが、とカザミネは内心苦笑しながら、振り返りもせずに背後にいる者に話しかけた。

「肝に銘じておきます。

 でも…、カザミネさんこそどうしたんですか。早く寝ないと明日に差し支えますよ。」

 カイナはカザミネの言うことをさらりと受け流し、逆に同じことを彼に訊ねる。

 

「眠れないのでござるよ。

 無理に寝るよりはこうして月夜を眺める方が良い。」

 カザミネは一瞬だけ瞼を閉じ、再びあける。彼の瞳には金色の光を帯びる満月が映し出されていた。

「それはそうですね。ご一緒させていただいて宜しいですか?」

「どうぞ。」

 カイナはカザミネ横に並び立ち、彼女もまた満月を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらいの時間が経ったのだろうか。

 ふたりはずっと黙ってその夜空を見上げていた。

「ふむ…こうしていると、1年前のことを思い出してしまうでござるな。」

「1年前?」

 カイナはカザミネの言葉が気になり、訊ねる。

 

「拙者が剣竜を必死に倒そうと足掻いていたときのこと……つまり、ハヤト殿と出逢った頃のことでござるよ。」

「………。」

 カイナも何か思い当たるところがあるのだろうか、小さくああ、と呟いた。

 

「あれほど修行してまるで歯がたたなかったというのに、あの少年はそれさえも可能にさせた。

 …ほんに不思議な者でござるよ。」

「…でも、それは皆さんで協力しあったから剣竜を倒すことができたのではないのですか?」

 カイナは確かめるように訊ねる。

「それもあるのでござるが…なんというか、それ以外の…誓約者としてでの力ではなく……どういえばいいのでござろうか、あの少年が拙者の分岐点になったと思うのでござるよ。

 彼と出会っていなければ、きっと今頃は剣竜にやられていたでござるな…。」

 カザミネは軽く目を伏せながら、語った。

 それをどう思ったのか、カイナはくすくすと笑う。

「私も、ですね…。

 あの時、私を“外”へと連れ出して下さらなければ、きっとみなさんと知り合うこともできず、ねえさまとも再び逢うことができなかったはずです。

 そういう意味ではもっと彼に感謝をしなければなりませんね。」

「ふむ。なるほど今度感謝の意をこめてなにか差し上げなければ……。」

「……ふふっ、そうですね。」

 真面目に考え込んでいるカザミネに、カイナはその様子が滑稽で、思わず笑いを溢してしまい、彼の意見を肯定した。

 

 

「人間というのは少なからずとも誰かによって助けられ、そして誰かを助けているのですね。」

「そうでござるな。拙者たちがハヤト殿に助けられたように…今度は拙者たちがマグナ殿の力になる番でござる。」

 カザミネはそう言うと、一度軽くため息をつくと再び口を開いた。

 

「彼は自分の先祖の罪を悔いながら生きている。

 彼が何をしたというわけではないのに…真に心優しい人間であり、それが故に不器用な人間でござるな。」

「そうですね…。あの方ほど、鈍感で間抜けな人は見たことがありません。」

「む?」

 カイナの意外な言葉に顔をしかめるカザミネ。

 

 

「だって、アメルさんやネスティさんを守るために自ら傷ついています。

 ……責任を負いすぎるんですよ。

 彼らはそんなことを望んでいるわけじゃないのに……とあの時は思いました。」

 あの時とは、マグナが自分の先祖の罪について知って部屋に塞ぎこんだ時のことだ。

 

 カイナは続けて言葉を紡ぐ。

「けれど、それが“パートナー”というものなのでしょうね。

 ハヤトさんとクラレットさんのように。」

 ふたりはお互いを思い遣っている者たちを思い出していた。

 たとえ相手が秘密を隠していたとしてもそれを信じ、いつも相手を支えあっていたあのふたり。

「同意でござる。

 言わばお互いの半身のようなものでござるな、あの二人は。

 そしてマグナ殿たちも…。」

「そうですね…。

 お互いがお互いを必要としている…少し羨ましいかもしれません。」

 目を細めるカイナに対してカザミネが不思議な顔をして発言する。

「ケイナ殿がいるではないか。

 “姉妹”というのも一種の“パートナー”ではござらぬか?」

「でも…ねえさまは私のことをお忘れになさっていますし…。」

 カイナは一瞬だけ悲しそうな表情をする。

 

 カザミネはそれを慰めるかのように優しい声で言う。

「いや…それは関係ないでござるよ。」

 カイナはえ?と顔をカザミネに向ける。

「覚えていないからといって過去が失われたわけではござらぬ。

 彼女が覚えていないのであれば、お主が彼女に語ってやればよい。

 それよりも大切なのは、現在を、そして未来をどうするかでござるよ。

 過去の思い出を忘れてしまったのならば、今から過去の思い出に劣らぬ思い出を作ればよい。

 たったそれだけのことでござらんか?」

「それもそうですね。

 ……この件が済んだら、そうすることにします。」

 

カイナはにっこりカザミネに微笑み、カザミネもそれに頷く。

「そして…またこんな風にお話してくださいね。」

「うむ、心得た。」

「約束、ですよ。」

カイナはすっと、右の小指を差し出す。

「ああ。約束でござる。」

カザミネもそれに応え小指を彼女の白いそれに絡ませた。

 

あとがき

 リサイクル品、その8。2のラスト数話での会話のカザミネ&カイナ。

 自分、カッコいいカザミネさん推奨派です。使えないだとか、だらしがないとか非難轟々な彼ですが、本当はカッコいいんですってば。

 コレもそんなカザミネさんを想像してのSSでした。

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