N少年の悩み 

※このSSでは生徒4人、家族でも何でもないです。

 偶然、同じ家庭教師につかれることになるというだけの関係からはじまりました。

 そこをご了承の上、閲覧してやってください。

 

 

 少年は悩んでいた。

 別に不満があるとかそういうことではない。

 目的地とは違う島に流されたものの、そこの生活も悪くはない。むしろ、今まで自分が出会ったこともない経験をもたらしてくれ、楽しく充実しているぐらいだ。

 

 

 そんなある日。

 

 

「――…じゃあ、アリーゼ、ナップ。悪いけど後でふたりで俺の部屋まで来てくれるかな?

 メイメイさんのところでちょっと授業のために買ったノートとか鉛筆とか色々あるからさ。

 今日の授業でスバルたちに配っておきたいから」

 朝食後レックスは、まだもぐもぐと食事を摂っているナップとアリーゼに声をかけた。

「先生。僕とベルフラウはどうすればいいんですか?」

 ふたりが返事をする前に、ウィルが質問する。名目上、四人は生徒たちのまとめ役になっている。その中で二人だけに任せておくわけにはいかない。

 責任感の強いウィルは自分たちも何かした方がよいのではという気持ちからレックスに訊ねた。

「ああ…たしかアティが用事があるって言ってたから、君たちは彼女のところに行ってくれないか」

「ええ、わかりましたわ」

 はっきりとした口調でベルフラウが答える。そしてナップやアリーゼも頷くのを確認してから、レックスは自分の部屋へと戻っていった。

「頑張ろうね、ナップ君!」

「お、おう…!」

 にっこり微笑むアリーゼにナップはしどろもどろになりながらも答えた。

 

 食事を食べ終えた二人は早速、レックスの部屋へと向かった。

「あ、もう来てくれたんだ。じゃあ、そこの箱の中に入ってるのを二人で手分けして青空教室まで持って行ってくれるかな?」

 かけていた眼鏡をはずし、レックスはベッドの横にある箱を指した。

「うへぇ…結構あるな、これ」

 その量に半ば呆れかえるナップにレックスは苦笑を浮かべた。

「まあ、それだけ授業には必要だってことだよ。頼めるかな、ナップ、アリーゼ?」

「おう……」

「頑張ります!」

 ナップが返事をする前にアリーゼが声を上げる。しかもやる気満々と言わんばかりに。

 そんな彼女に他のふたりは呆然としたが、レックスは再び苦笑を浮かべるとアリーゼの頭を撫でた。

「ありがとう、アリーゼ、ナップ。授業は一時間後からだからそれを運んでくれたら授業まで自由にしてくれていいから」

 ふたりは肯定の代わりに頷くと、その箱から教材を取り出しレックスの部屋から退出した。

 

 ふたりで森の小道を歩く。アリーゼは嬉しそうに歩いているのに比べ、ナップはどこかしら複雑な表情を浮かべていた。

 彼女が気になり始めたのはいつからだろう。初めて知り合ったのは、家庭教師――すなわちレックスと初めて出会ったときだった。

 それまで彼女の名前も姿も知らず、ただもう三人同じように家庭教師がつくというぐらいだった。

 最初の印象はおどおどしていて、あまりナップは好きではなかった。自分の意見もまともに言うことができず、ただうろたえているばかり。

 その印象が変わったのは、帝国の兵士に捕まったとき。あの戦闘の後、彼女自身もケガをしているくせに、わざわざ自分の怪我を泣いて心配してくれた時。

 それから、ずっとナップは彼女のことが気になっている。だけど、彼は知っている。アリーゼはレックスのことが好きなのだと。

 今朝張り切っていたのもレックスのためだろう。それを手伝っているナップはレックスから言われたのもあるが、そんな気になる彼女と少しでも接していたいという気持ちもあった。

 

(でも、アリーゼは先生のことが好きなんだよな。あ〜あ、オレ何やってるんだろ)

 自分でも馬鹿らしいとは思う。だけど、自分ではこの気持ちはどうにもできない。

 それを以前色々と経験が豊富そうなスカーレルに相談すると『それが普通なのよ』と言われてしまったが、どうにもこうにも釈然としない。

 

 

 そうこうしているうちに青空教室へと辿り着いてしまっていた。

「ふぅ……ここに置いとけばいいのかな?」

「あァ、大丈夫だろ。ここなら目につきやすいし。さて…授業までどうするんだ、アリーゼ?」

 重たい荷物をすぐそばにあった大きな木の下に置くと、ナップはアリーゼに訊ねた。

「ええと…戻ろうかな。先生に荷物を置いたことを報告しておかないと」

「ん…そっか。 オレは…そこら辺散歩してくるよ。じゃあ、また後で」

 ナップは急いで戻るアリーゼの後姿を見送ると、森の中を散策し始めた。ナップは報告なんてしなくてもいいことは分かっていた。それは彼女もだろう。

 ただ彼女は少しでもレックスと会話をする機会を作りたいのだ。ナップがアリーゼと接したいように。

 ますます複雑な気持ちになってきたナップは、アリーゼに予告したとおり気分転換に森の中を散策し始めた。

 

「…あれ、スカーレルとクノン…こっちに向かってくる」

「ナップ! ちょうどいいところに来たわ! ちょっと盾になって!」

 スカーレルはささっとナップの影に隠れる…とは言っても体格差があるので本当に申し訳ない程度の盾にしかならないのだが。

「お待ちなさい! 今日という今日は…教えてもらいます!」

「く、クノン、どうしたんだよ!?」

 明らかに様子がおかしい二人に、ナップは疑問符を頭に浮かべるがそんなことお構いなしと、クノンは手にしているハンドガンの銃口を後ろにいるスカーレルに向ける。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! ナップが危ないでしょ!?」

「問答無用、です!」

 トリガーを容赦なく引くクノン。弾丸はスカーレルの耳元すれすれを通り過ぎていった。ナップは呆然と突っ立っているだけである。

「くっ…! まだ捕まえられるわけにはいかないのよ! 出てらっしゃい! クロックラビィ!」

 スカーレルは懐から緑色のサモナイト石を取り出すと空に掲げる。と、突如時計を持ったウサギが何処からともなく現われ、スカーレルの身体に吸い込まれていった。

「移動力増幅憑依召喚術…!?」

「じゃあ、クノン、またね♪」

 スカーレルは一つクノンに向かってウインクすると、まさに脱兎の如く走ってどこかに消えてしまった。

「あ、あの…クノン?」

 おずおずとナップは悔しそうに眉をひそめているクノンに声をかける。すると、彼女は我にかえったようで、彼女の表情はいつもどおりに戻っていた。

「ナップ様、どうも見苦しいところを見せてしまいました。すみません。

 今度、スカーレル様を見たときには捕まえておいてください。…では私はこれで」

 それだけ言い残すと、クノンは彼女が来た道を戻っていってしまった。

 

「一体、何だったんだ…?」

 

 

 

 

 

 授業も終わり、ナップはスバルたちと遊ぶ約束をしていた。

 

「おっ、兄ちゃん、今日も挑戦するのか?」

「あったりまえだ! 今日こそは27秒台を切る!」

 そういい切ってナップがやろうとしているのは大蓮の連続ジャンプで向こう岸まで渡っていく、というものだった。

 最初の方こそ、すぐに池に落ちてしまっていたが、何度も何度も繰り返していくうちに上達し、今ではスバルとパナシェのタイムさえも抜くようになっていた。

 

「がんばれー、ナップくん!」

 パナシェの声援を受けながら、ナップは軽々と蓮の上を跳躍していく。しかし彼の頭の中は別のことでいっぱいだった。

(今頃、アリーゼ何してるんだろう)

 ふと思っただけなのだが、思ってしまったらそれがなかなか頭からは離れてくれない。

(もしかして先生と一緒に楽しく…)

 と、その瞬間気が緩んでしまい―――…

 

 

 ドボン!

 

 

 

 

 

「ふふっ、何じゃ男子はやはりこう元気でないとな。

 風呂は沸かせてある。スバル、パナシェと一緒に入るが良い」

 ミスミはずぶ濡れになったナップを風邪ひかさせないように沸かした風呂に入るよう勧めた。

 このままでは、たしかに身が冷たくなって風邪を引くようになるのは目に見えていたので、ナップはその言葉に従った。

 

 風呂からあがり、ナップは用意されていた甚平を着込んだ。

「おう、似合うではないか。これから大きくなるスバルのために作ったのだが…これはなかなか」

 愉快そうに微笑むミスミの言葉の通りサイズもピッタリだった。まんざらでもない様子のナップは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 その後、既に夕日は落ちたということで、ナップはすぐさまおいとました。早く帰らないと、あの心配性の先生のことだ。探しに来るに決まっている。

 森の小道を歩いていたナップは苦笑する。とその時聞き覚えのある声がナップの耳に飛び込んできた。

「きゃああああっ!?」

「アリーゼ!?」

 ナップは剣を鞘から抜くと、慌てて声の聞こえてきた草むらの中に飛び込んだ。

 そこには、腰を抜かして震えているアリーゼとはぐれ召喚獣の鬼がそこにはいた。

 この島には基本的にナップたちと友好的な召喚獣が多いが、中には理性を失い凶暴化しているはぐれ召喚獣も少なくはない。恐らく、アリーゼはそのはぐれに襲われているのだろう。

 ナップはそんなことを考えるまでもなく、アリーゼの前に躍り出た。

「…アリーゼ、大丈夫か!?」

「な、ナップくん…!」

 ナップははぐれを睨みつけたまま、剣を構えていた。今防具は身につけていないどころかサモナイト石も持っていないので、明らかに不利である。とりわけ、今身につけているのは甚平のみ。一撃でも喰らったら致命傷だ。

 しかし、ここで自分が退けば、アリーゼは襲われる。そう判断したナップは果敢にもはぐれに斬りかかる。

「てやあああああぁっ!」

「がああああっ!?」

 ザクッと切れ味のいい音がしたかと思うと、はぐれの片腕からは血が吹き出した。

「がああああっ!!」

その血をみて逆上したのか、雄たけびをあげるとその太い腕でナップを殴りつけた。

 身体の小さいナップはいとも簡単に吹き飛ばされ、木の幹に身体を打ち付けられる。

「がっ!?」

「いやあああっ!? ナップ君!!」

 アリーゼは悲鳴をあげると、ナップの側に駆け寄る。顔色は悪く、ぐったりしている。

 そしてはぐれは一歩、二歩、とゆっくりと近づいてくる。まるでアリーゼが絶望するのを楽しむように。

 アリーゼは目を瞑る。そして――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……ここは…」

 ナップが目を覚ますとそこはラトリクスのリペアセンターだった。

「あら…気がついたのね。 どこか痛むところはない?」

 デスクで仕事をしていたアルディラがこちらに気がつき、ナップへと近寄る。

「どうして、オレ…ここに?」

「スカーレルとクノンが貴方たちをここまで連れてきたのよ。

 何でも…はぐれに襲われそうなところを間一髪で助けたってそう聞いているわよ」

「そうだ、アリーゼは!?」

 ナップはアルディラの言葉を聞くと、跳ねて起き上がり、彼女に尋ねる。すると、アルディラは指をナップの唇に持っていき、隣のベッドを見やる。そこではアリーゼが静かな寝息を立てて眠っていた。

「さっきまで貴方の看病をするって聞かなかったのよ。疲れてたのか、やっと諦めて眠ってるの」

「アリーゼが……」

 ぼんやりとナップは寝ている彼女を眺めた。そしてそんな彼を見て、クスッとアルディラが笑みを溢した。

「貴方に『助けてくれてありがとう』って彼女が言ってくれって頼まれたわ。

 やったじゃないの、小さな騎士(ナイト)さん?」

「オレは別にそんな……」

 ナップはしどろもどろになって答える。しかし、彼がまんざらでもないように見えるのは決して気のせいではないだろう。

 

 ナップはもう一度、彼女の寝顔を眺める。

「そうだよな…まだ負けたと決まったわけじゃない。先生には負けない…覚悟しろよ!」

 そう独り言を呟くと、彼はにこやかに微笑んだ。

 

 

あとがき

 リサイクル品その2。

 ナプアリといった至極マイナーな作品。何気に「KISSKISSKISS」作品の同時間軸上で、さりげにスカクノ登場。

 元気少年×大人しめ少女の組み合わせはなにより好きなのです、私。

 構図としては

 ナップ→アリーゼ→レックス×アルディラみたいな感じで。このあと、ナップはレックスをライバルとして追い掛け回します。

 当人はなんのことやらまったく分かってなかったりで(笑

 

 

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