新年早々…
「はあ、もう新年かぁー…早いな」
「何、爺臭いこと言ってんのよ、兄貴」
元旦、午前0時半。
ここにいるのは俺とクラレット、そして妹だけだ。父さんと母さんは既に寝てしまった。
目の前に写るテレビを見ながらこたつにもぐり、煎餅を貪りながら感慨深く俺は息をついた。
思ってみれば今年は色々あった。…と言ってもリィンバウムに喚ばれ、そこでの生活が主だが。
そこでは、普通どおりの生活をしていたならば味わえないような経験を積むことができ、それは俺にとって新たな考え方や取り組み方…要するに俺自身が変わる機会を与えてくれた。
特に…クラレットと出逢えたことが一番俺にとって大切な出来事だった。
いつも側で心配そうに俺を見守っていてくれていた彼女。
いつも無鉄砲な俺を静かに諭し、止めてくれた彼女。
いつも俺に微笑んでくれていた彼女。
彼女と出逢ってから接していくうちに、彼女の存在が俺の中で大きくなっていた。
そして深い絆で結ばれ、かけがえのない存在へとなっていった。
リィンバウムから元の世界に俺が帰るとき、彼女は双眸から涙を流しながら言ってくれた。
俺が必要だ、と。
そして俺も彼女が必要だった。
元の世界に戻り、俺は彼女のことばかり考えていた。そしてその時、彼女という存在がそれだけ大きいことを改めて感じた。
だから、彼女が俺の世界まで追いかけてきてくれたことはとても嬉しかった。
これからはいつも一緒だということが何よりも幸せなことだった。
うちの両親は基本的に放任主義で、親子の縁を切られるだろうと必死の覚悟で、クラレットをうちで面倒をみてくれないかと頼んだ時もすんなりとOKしてくれた。妹は何故かぶーたれていたが。
そんなこんなで、俺の家に居候することになったクラレット。
そして今、彼女はお茶をすすりながらミカンを頬張っていた。俺は何気なくにこりと彼女に微笑んでみた。
すると、彼女もはにかんだ照れ笑いを返してくれた。
はっきり言おう。かなり可愛い。
俺よりもひとつ年上だが、そんなことを感じさせないぐらい可愛い。
もう、両親や妹の目がなかったらあれやこんなこと、果てにはあんなことまでやってしまいたいと思うほど、である。
さすがに道徳心というものがあってそこまではできないが。なんて言ったって、キスはおろか、手も繋いだこともないし。
そりゃあ、彼女がこの世界に追いかけてきたときは感情が高ぶって抱き合ったりなんぞもしたが、日常ではそんなことはとてもじゃないができない。
気持ちは通じ合っていると自負するが、いかんせん女の子と付き合ったことがないため、ここからどうすればいいのか全く分からない。
あまりにも可愛すぎて、彼女を穢したくないというのもあるが。
そんなコトを考えていたためか、顔が緩んでしまい、妹―春那がじろりとこちらを睨みつけてくる。
「もーなによ、兄貴!
さっきからじろじろクラレットさんの顔を眺めてから!
どーせ、Hなこと考えてるんでしょ!?」
「そ、そうなんですか…ハヤト?」
春那の言葉を真に受けてクラレットが頬を紅潮させながら上目遣いで訊ねてくる。
思わず、俺は慌てて大声で答える。
「ば、バカッ!
そういうんじゃないってば! クラレットも春那の言うことを真に受けるなよ……」
「へぇー、本心はどうかしらねぇ?
今すぐ私を追い払って、クラレットさんを襲いたかったりしたいんじゃないの?」
「お、おそ…っ!?」
俺は反論するものの、じとっとした目線で春那がこちらを見て、クラレットは先ほどよりもひどく頬の色を濃くしている。
春那はどうも、クラレットがウチに来てから俺によく突っかかって来るような気がするんだよな…俺の気のせいかもしれないけど。
そしてその時、クラレットがふと思い出したかのように、とんでもない事を俺に訊ねてきた。
「ハヤト、『ひめはじめ』って何ですか?」
「「へっ?」」
この質問には俺も春那も固まってしまう。春那なんか飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになり咳き込んでしまったほどだ。
「あ、兄貴ぃ〜っ!
クラレットさんにそんなことまで教えているの!?」
「ご、誤解だ!
っていうかなんだよ、その手に嵌めている手甲は!?」
いかにも戦闘用、って感じたっぷりな手甲を嵌めながら春那は拳同士を付き合わせる。ZOC…闘気はすでに形成され、俺は逃げることができない。
が、それをクラレットがただならぬ雰囲気を察して止めに入った。
「ま、待ってください!
ええと……この間てれびで、そんなことを言ってたんです。
辞書を引こうにも、私まだこの世界の文字はよく分からないので聞いて見たんですが…何かまずかったですか?」
困惑したような表情で、俺と春那を見比べるクラレット。マズイも何もあったもんじゃない。
そんなクラレットを見て、春那はため息をついて彼女に耳打ちをする。すると次第にクラレットの顔はみるみるうちに赤くなってしまい、最後には俯いてしまった。
「え…えっちなのはいけないとおもいます!」
俯いて、クラレットがやっと口に出せた言葉は某メイドさんの口癖であるそれだった。
「…まぁ、本来は女性が洗濯や洗い張りをする日、っていう意味もあるけどね。今の若者は殆どそっちの意味は知らないでしょうね。
大方さっき説明したとおりの意味としか取ってないわね。まあ、クラレットさんがテレビで聞いたのは前者の方の意味だと思うわよ」
俺は春那にお前もその若者だろうがと心の中で突っ込みを入れ、彼女は補足した。
「ま、まあ、そういうことだからあまり気にしない方がいいよ、クラレット」
「あ、は、はい……」
少しだけ顔を上げると彼女は静かにコクンと頷いた。
それから数十分後。
「ふぁ〜あ…眠っ…。
私、先にお風呂に入らせてもらって、もう寝るね。
戸締りして電気も消しといてね、ちゃんと」
あくびをしながら背伸びをした春那は、立ち上がりそう言葉を残して風呂場へと歩いていったが、部屋の出入り口に立ち止まると、ふりかえって意地悪そうに口を開いた。
「一応言っておくけど私がいないからって、クラレットさんを襲わないでよ、兄貴。
まだ犯罪者にはさせたくないからね」
「うるせえっ! 余計なお世話だ!」
俺はとっさにクッションを手に取り、春那の方へと投げつけるが既に遅く、クッションにぶつかったのは、春奈を送り出したあとのドアだった。
ドアにぶつかり、クッションはフローリングの床へと落ちてしまった。
「くっそー…春那め!
いらないことばかり口にしてから…ホントにもう仕方がない妹だよ」
俺は床に落ちたクッションを拾うと、クラレットに向かって苦笑を浮かべた。するとクラレットは何か考えていたようで、小さな声で呟いていた。
「――…もしかしたら、春那さんはハヤトのことを…?」
「クラレット?」
俺は気になってしまいつい声をかけてしまう。
「…あっ、いえ、なんでもありません。あはは…」
乾いた笑いを浮かべながらそう言うクラレット。明らかに何かを隠しているように見えるが、俺は何も追及せずソファーに座る。
気まずい沈黙がふたりの間に下りる。しかし、俺はそんな沈黙を破るように口を開いた。
「あ、あのさ…クラレット。
どうして、俺を追いかけてきてくれたんだ? とても大変なことだったんだろう?」
突然その質問しか頭に浮ばなかったので、俺はそのままそれを口に出した。
クラレットが俺を追いかけてきたこと、それは並大抵のことではなかったはずだ。
まず、俺がどの四世界にも属していない『名も無き世界』の住人であり、そこを探し出すのはとても大変だっただろうし、誓約者が張った結界はちょっとやそっとでは敗れないはずだ。
ということは、下手をすれば命を落としかねるところだったかもしれないということだ。
俺としては嬉しい限りだが、クラレットが苦労することがいたたまれなかった。
そして、クラレットは静かに微笑むと、答えた。
「それは…私には貴方が必要だからです。
そしてその目的を達成させるために、それが必要だと知ったからそれを実行したまでです。
それじゃ理由にありませんか?」
「いや、俺にとってとっても嬉しい理由だよ、それは」
俺はいつもどおりの笑みでその質問に答えた。すると彼女は、嬉しそうに子どものように笑みをこぼすと俺に抱きついてきた。
「しばらく…このままにしててもいいですか?
貴方がここに、私の隣にいるという温かみを感じていたいんです」
断る理由はない。俺も彼女の背中に回すと、彼女を抱きしめた。そして彼女の言葉は俺の理性を崩落させるには十分だった。
「…あのさ、クラレット」
「はい?」
俺が声をかけるとクラレットは上目遣いでこちらを眺めてきた。可愛い。
「クラレットと同居してからずっと押さえてきたんだけど…やっぱりダメみたい。
だってこんなにクラレットは可愛いんだから…クラレットが悪いんだよ?」
俺はクラレットの髪を手に取ると、そこにキスをした。彼女の顔は熟れたトマトのように真っ赤になってしまう。
「はぅ…か、可愛いだなんて…」
「だからさ、クラレットのこと……食べてもいいかな?」
「は…?」
トドメ。完全に彼女の体は硬直してしまった。
「た、たたた食べるって!
は、はやと!? え、えっちなのはいけないと思いますぅ!」
さて、この後クラレ嬢がどうなったかは、また別の話で…。
あとがき
リサイクル品その3。珍しくハヤトが攻めで、ハヤクラ。ラブ甘めで。
オリキャラ、春那はここっきりのブラコン妹。
クラレットが居候するようになって、ハヤトに突っかかるのは、そのブラコンのため。
何気にクラレさん、それに気がついてたりします。ハヤトはまったくですが。
あ、某メイドさんのセリフが入ってますが、無視の方向で(笑
春那はキャラ的に扱いやすかったので、チャンスがあればまた出してみたいです。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||