Pleasure 

 

 名も無き島。

 このリィンバウムに召喚されたはぐれ召喚獣たちが身を寄せて暮らす平和な島。

 今回は、そんな平和な島での一場面。

 

「あら、アルディラ・・・お洒落じゃない、そのイヤリング」

 たまたまラトリクスに遊びに来ていたスカーレルは、アルディラが新しいイヤリングをしていることにふと気付いた。

「え、えぇ・・・レックスが贈ってくれたの。この間、メイメイのお店で見つけて似合いそうだったから、だって」

「ぼーっとしててもなかなかやるわね、センセも」

 そう感心したようなスカーレルを見て、アルディラはくすりと笑みをこぼした。

「ああ見えて結構情熱的なのよ、彼は」

「はいはい、ごちそーさま」

 スカーレルは笑いとともに顔を扇ぐような仕草をする。

 それを見て、アルディラは意地悪そうな笑みを浮かべると、今度は彼女がスカーレルに訊ねた。

「貴方こそ、クノンとどうなってるのよ?」

「・・・それは言わないでちょーだい」

 スカーレルは額に手を当てて、天井を向いた。

 少し前、“キス”とは何かと問われて、彼はクノンに襲われかけた。そりゃあもう、身の危険を感じるほどに。

 しかも彼女に根負けし、キスもしてしまった。あの時は感情でしてしまった感もある。

 それは彼女に対して失礼だと思うし、自分ながら情けないとも思っていた。

 

 スカーレル自身、彼女が嫌いなわけではない。

 むしろ、人間のことを知ろうとしている彼女の純真な心に魅かれ始めている。

 ではなぜ彼女を拒むのだろうか。

 それはやはり人間と機械人形という違いがそうさせているのだろう。

 機械人形は動力源がある限り、半永久的に生き続ける。

 だがしかし、人間はそうでない。老いていけば、簡単に死んでしまう。

 上手いこと生きたとしても、あと50年がいいところだろう。

 クノンがもしスカーレルを愛したとして、それは果たして幸せと言えるだろうか?

 もちろん、その数十年は幸せであろう。

 しかし、彼女は老いていく自分を見てどう思うだろうか?

 そして、自分が死んだあとは?

 

 スカーレルは頭を振り、その思いを打ち消した。

 やはり、自分と彼女は恋愛感情を持つべきではない。

「―――貴方がどう思っているかは知らないけど、彼女は本気よ」

 その考えを見透かしたように、アルディラが口を開いた。

 そのくらい、分かっている。痛いほどに。

 

 だから苦しいんじゃない。だから悩んでるんじゃない。

「そうね・・・」

 そんな想いとは反対に、スカーレルは曖昧に笑うと頷いた。

 と、その時、クノンが飲み物をお盆に乗せて、部屋に入ってきた。

「アルディラ様、スカーレル様、お飲み物をお運び致しました」

「ありがとう、クノン」

「・・・ありがと」

 アルディラは微笑みながら、スカーレルはあまり表情出さずに礼を言い、グラスを受け取った。

 クノンはちらりとスカーレルを見た後、一礼して部屋を退出した。

 

「・・・あれほど、気が利く娘もなかなかいないわよ」

「―――それはアタシだってよく知ってるわよ」

 スカーレルはアルディラの言葉に俯く。

 そんな彼を見たアルディラは軽くため息をついて、かぶりを振った。

「あのね、貴方が何を気にしているのかは私には分からない。

 だけど、言えることが一つある。恋愛に理屈も何もあったもんじゃない。要るのは両者の気持ちだけよ。

 そしてその気持ちは無くなることはない。ふたりが想い続ければ。

 それはいつしか思い出になり、その者に生きる勇気を与えてくれる。

 ・・・レックスが私にそうしてくれたように。

 だから、恋愛にいいことはあっても悪いことはないのよ。ふたりが想いあっていればの話だけど」

 アルディラは、ふっと柔らかな笑みを浮かべて語った。

 すると、スカーレルはパッと顔をあげ呆けたような表情を浮かべると、突然笑い声をあげた。

「アハハッ、そうね・・・そうよね」

 彼はもう一度天井を見上げる。

 どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろうか。

 たしかに自分はいつしか彼女の前からいなくなってしまう。

 だけども。

 だけども、その分彼女を愛すればいい。

 そして彼女の前からいなくなってしても、また新しい出逢いはあるはずだ。

 あんないい娘に相手が現われないなんて嘘だ。ありえない。

 別れる悲しみよりも出逢えた喜びを。

 

「ありがとう、アルディラ」

「ええ。どう致しまして」

 フフと微笑むアルディラ。するとスカーレルは何かに気がついたようで、笑いをかみ殺す。

 怪訝に思った彼女は眉をひそめながら彼に尋ねる。

「どうかしたの?」

「センセが情熱的っていうこと、よーくわかったわ。アツいアツい・・・。

 このまま黙っておくのも面白いけど、お礼代わりに教えてあげる。

 首もとにキスマークがついてるわよ」

 アルディラの顔は一気に真っ赤になってしまい、彼女は慌てて首もとを手で隠す。

「あの人は・・・っ!」

「じゃあ、またね。今度はセンセも一緒に連れてくるわ」

 スカーレルはくすりと笑みを浮かべると、ひらひらと手を振って出て行った。

 

 

 これは余談だが、レックスはこの日から一週間アルディラに口をきいて貰えなかったという。

 まあ、理由は皆さんのご想像にお任せします。

 

あとがき

 はい、マイナーです。ちなみに『KissKissKissShe wants to know〜』の続きです。

 レックス&クノン抜きのレクアル&スカクノのアルディラ&スカーレル。(なにがなんだか)

 まあ、このカプに限らず、異世界の住人同士のカプというのは必ずこういう問題に突き当たるわけで。

 アルディラとスカーレルはなんかヤッファとスカーレルが酒飲み仲間としたら、ふたりはおしゃべり友達って感じです。

 

 

 

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