貴方が私を、混沌とした闇の中から助け出してくれた
 

ならば今度は私が貴方を助ける番


待っていて…必ず私が貴方を助け出すから

 

 私も悲しみの中で踊りを踊りたくないから



 放課後の学校の教室。
 夕日が窓から差し込むそこにはふたつの人影があった。
 一つはこの学校の生徒。
 もう一つは不思議な服装をした少女。
「――…ハッ、人間風情がよくこの世界まで来ることができたな?」
「私は貴方…いえ、彼が好きですから。」
 臆面なくそう告げる少女。そこには羞じらいはなく、ただその表情からは強い意志が感じ取られる。
「で、どうするつもりだ?
 何をするにも、罪も無い人間を巻き込むことになるが?」
 彼女と対峙する少年はまるで少女を試すかのように不敵な笑みを浮かべた。 しかし、少女は無表情のまま少年を睨みつけながら、さも興味が無さそうに淡々と述べた。
「別に私は構いません。
 私には関係ないし、どうなろうと知りません。
 私がただ欲するのは、彼が私のそばにいることだけですから。」
 すると、少年は冷笑を浮べ、皮肉るかのような言葉を少女にぶつける。
「ハハハ…人間にしては、昏(くら)い心を持っているんだな。
 だが、分かっているのか?」
「……?」
 少年の言葉を訝しげに思い、少女は眉を寄せ顔をしかめる。
「もし、万が一何かの間違いが起こって、お前が俺をどうにかしてコイツから俺を追い出したとしてもだ。
 コイツは、あの世界のことはおろか、お前のことさえも夢だと思っている。
 その時、お前はどうするんだ? 現実を伝えるか?
 だが、普通の人間なら信じないだろうな。
 逆に想いが伝わらなくて、みじめな思いをするだけだぜ?
 …それでも、お前は俺に刃向かうか?」
 少年は天井を向き、かかとして笑った。
「ええ、言ったでしょう?
 私は彼が好きなんだって。」
 少女は冷めた様子でそう言い放つと、腰紐にかけていた鞘から銀色に輝く短剣を抜いた。
「そんな短剣で俺を斃されると思ってるのかよ?
 俺も舐められたものだな。」
 先ほどまでとは打って変わり、静かでありながら威圧感のある声で訊く少年。
 しかし、少女はニッコリと微笑みながら短剣を構え、答えた。
「いえ、思ってません。
 でも、これが私の選択です。」
 そう言いのける少女を、少年は目を細めた。
「なるほど。そりゃ立派だ。
 無関係の人間を巻き込むのも、無駄だと分かって無謀なことをするのも、
 全てはコイツのため。
 お前は、全世界で一番最低最悪の愚かなエゴイストだな。」
 少年は笑う。だが、それは今までの冷笑や嘲りなどとは違う笑み。それに気がついたのか、ついていないのか、少女は再び笑みを溢した。
「ええ、そうですね。
 最低最悪、愚者、エゴイスト…どれも今の私には即した言葉ですね。
 それでも私は、彼が好きなんですから仕方ありません。」
「ああ、そのとおり。
 だが、それと同時に、最高にいい女だ。
 コイツもそれほどまでに想われて幸せだろうな。」
 少年は自分自身の胸に親指を押し当てる。
「どうせなら、あの時儀式を無理やりにでも成功させて、お前の身体を乗っ取れば良かったぜ。」
「あら、それって、褒められてるのですか?」
 クスクスと笑みをこぼす少女に、少年はニヤリと口の端をつりあげさせる。
「さてな。
 お前みたいなヤツは好みなんだよ。」
 ククッと少年は笑うと、スッと少女に近づく。少女は一瞬警戒して身を強張らせるが、予想外のことが起きた。

 キス。

 濃厚な接吻を彼によってされたのだ。まるでなぶられるかのような荒々しいキス。少女は突然のことに呆然となるが、目元をふっと和らげると彼のそれに応えた。



 彼は目を細めながら唇を離すと、彼女に訊ねた。
「どうして受け入れた?
 俺をコイツと被せたか? それとも抵抗する気力も失ったか?
 もしくはその両方か?」
「そのどちらでもないです。」
 穏やかだが、キッパリとした言葉で少女は答えた。
「彼を貴方に被せるほど愚かでもありませんし、
 かと言って、私は抵抗を諦め、どうでもいいと思うほど人間はできてません。」
「ならどうしてだ?」
 口元をにやにやさせ、意地の悪そうな声で訊ねる少年。それに対して少女はクスリと笑みをこぼすと答えた。
「さあ? 私にも分かりません。」
「ハッ…お前も喰えないヤツだな。
 まッ、そのキスの代金でも払ってやるよ。」
 呆れながらそう言う少年の言葉に、少女は不思議に思い首を傾げる。
 少年はフッと笑みを浮かべ指をパチリと鳴らすと、彼の雰囲気がガラリと変わった。

「…クラレット。」
 まぎれもなくそれは、少女が追い求めていた少年だった。
「待っていてください。必ず、貴方を助けますから。」
 少女はそう笑みを浮かべながら言うと、彼もニコリと微笑んだ。
「うん。 …信じてるよ。だから、無理をしないで。」
 そう少年が告げると、またもや彼の雰囲気は代わり、少年はニヤリと口の端をつりあげた。

「どうだ? お前にしては最高の代金だろ?
 まぁ、アイツはアイツが夢だと思っている自分自身―…つまり本来のアイツだ。
 今のアイツじゃないがな。」
「ええ、ありがとうございます。」
 少女はニッコリと微笑んだが、次の瞬間、怒りを含めた冷徹な顔つきとなった。
「なんて礼を言うと思いましたか?
 彼を侮辱しましたね…許しません。
 …私が必ず貴方を倒してみせます。」
「コイツは俺の中にいる…。
 果たしてそう上手くいくか?」
「ええ、私は相手が何であろうと斃してみせます。
 たとえ…魔王である貴方だろうと。
 そして、私は彼を助け出してみせる。
 それが私の意志、そして選択だから。」
「ハッ、大きく出たな。」
 少女は再び短剣を構えると、少年は冷笑をもらし、空中へと浮かび上がった。
 少年からは紫色のオーラが溢れ出て、それが膨張して爆ぜたかと思うと、それから生じた衝撃波が少女を襲い、教室のドアに叩きつけられるが、立ち上がった。


「さあ、始めましょう? ラストダンスを――…」

「――お相手しよう、愚かな姫君」

 

あとがき

一番私が今のところ気に入っているハヤクラ話です。

ぶっちゃけた話、魔王×クラレっぽくなっちゃってますが。

脳内ではクラレさん=速水君という図式が成り立っちゃっているんですよねぇ…。

なぜか彼に彼女を被せてしまうのです。今まで色々なクラレさん書いてきたからかな。

ラブラブクラレさん、魔王クラレさん、青のクラレさん、絢爛舞踏クラレさん。

全て、ハヤト君が原因なのですが。私の脳内では。

 

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