LESSON2 不倶戴天!

「えと…もう一度仰ってくださいますか?」
 桜の精の言葉に耳を疑った広海は、彼女に訊き返す。
「耳でも遠いのか?」
 桜の精は広海の反応を楽しんでいる様子で彼をからかうような言葉を口に出す。
「もう一度言うぞ。
 そなたにはそこにおるもう一人の葵広海…
 ヒロミと魔物祓いをしてもらう
 …分かったか?」
 にっこり微笑む桜の精。対して広海もぎこちなく微笑む。

「ボクにはそこの女の子と魔物祓いをしろ、と聴こえたのですが?」
「ああ、そのとおりじゃ。疑問でもあるかの?」
 桜の精は平然と言いのける。
 広海はあまりの非現実的な出来事――桜の精が出てきたり、
 その精霊から魔物祓いをしろといわれたり――に頭痛がしてきた。
「ありまくりですよッ!
 そんなにこの学校は物騒なんですか!?
 それになんでボクが!?
 しかもそれって危ないんじゃないんですか!?」
 あまりのことに疑問をすべて口に出す広海。
「まあまあ、落ち着け。
 そんな一度に訊かれても答えることはできぬ。
 …仕方がない、一から教えてやろう」
 ふぅとため息を吐き出すと、桜の精は語り始めた。

「元々この地方は霊的力場が強いところでの
 …特にこの学校周辺の土地はその中でも、
 辻―霊の通り道―が全て交差する場所、つまり霊的力場が強いところなんじゃ。
 …で2年前まではここに建てられていた社が
 この周辺に出没するはずの悪霊や妖怪などを押さえつけていたのじゃ」
 桜の精はどこか懐かしむような顔になり、続きを語る。
「それが…2年前、この学校の二人の馬鹿者がほんの些細なことで、
 社を壊してしもうての…。悪霊たちは自由となり、暴れ放題しおった」
「そ、それでどうなったんですか?」
 広海は、桜の精に話の続きをせかす。
「ワシは直接人間界には介入できぬ。
 そこで社を壊した張本人たちに魔物祓いをさせた。
 もうそれからというものの、その二人は愉快での。
 性格は真反対、仲も悪いというのに、これがなかなか息が合う二人での、
 事件が起こるたび、奴らはそれを解決しおった。
 …そして昨年の3月、ようやく社が奴らと奴らの級友たちによって
 再建されての、ようやく悪霊たちも静まり返ったというわけじゃ」
「そうなんですか…。
 それで、なんで今頃になって魔物祓いなんて…」
 桜の精の話によると、その事件は解決されたのではないだろうか、
 ならば自分の出る幕はないんではなかろうか。
 そんな疑問を抱きつつ、広海は桜の精に質問をした。
「それなんじゃ。
 どうやら何者かがこの社の霊力を奪い去ってしまってのぉ、
 再び悪霊たちが蠢(うごめ)き出しておるんじゃ。
 今のところ学校の者には被害が出ておらんようじゃが、
 一刻も早く犯人を探し出さなくてはならん」
「ちょ、ちょっと待ってください!
 それならもう一度建て直せばいいんじゃないんですか?」
 もっともな意見である。
 が、桜の精はそれを見越していたかのように即答した。
「同じことの繰り返しじゃ。
 …こうみえてもワシは精霊界では高位の精霊じゃぞ?
 そんなワシに気付かれもせず、あの社の霊力を奪い去るのは困難極まりない。
 原因を断たねば、同じことの繰り返しじゃ」

 広海は信じられないと頭をふり、ふとあることに気がつく。
「じゃあ、なんでボクなんですか?
 貴女の話によると以前妖怪退治をしていた人たちはこの学校の3年生でしょう?
 その人たちに頼めば…」
「無理じゃ。」
 桜の精は顔をしかめて即答。
「奴らにこの話をしたらどういったと思う!?」
 ついにはその瞳には涙が。


『受験生にそんなことをさせる気か?
 俺は忙しいんだ、そっちの馬鹿猿にでもさせとけ』
『なによ、その言い方!この偽千秋!
 あ、あたしもダメ!
 必死に勉強しても大学に入れるかどうかのレベルなんだから!
 この一年はちゃんと勉強しないと!』


「奴らめぇ…今思い出しても腹立たしいッ!
 自分の大学受験と学校の平和、どちらが重いのかわかるじゃろうに!!」
「は、はは…それは仕方がありませんよ…。」
 地団駄を踏む桜の精に半分同情、半分呆れの笑いを浮かべる広海。

 しばらくして、はぁ、はぁ、と肩で息をしている桜の精は続きを話した。
「…そして、そなたを選んだ理由は、
 そなたたちには我が霊力をもって魔物祓いをしてもらうのじゃが…
 その適応にあったのがそなたらじゃったというわけじゃ」
「ボ、ボクがですか!?」
 こればかりには驚く(いや今までも散々驚いてきたが)広海。
「そうじゃ…これは天命だと思って引き受けてくれぬか?」
「ええとボクは…えんりょ……」
「引き受けて・く・れ・る・よ・なぁ!?」
 桜の精は物凄い形相で広海を睨む。
 広海は逆らうことも出来ず、涙を流しながらコクコクと縦に首を振る。

「よし!よく快く引き受けてくれた!」
(何を言ってるんだよ……半ば脅迫だったくせに)
 心の中で呟く広海。
「何か言ったか!?」
 桜の精は何かを感じ取ったらしく、キッ、と広海を睨む。
「なんでもありません…」
 広海はその睨みに身を竦ませながらも、トホホと肩を落とした。


「それは兎も角、お前たちには魔物祓いのための武器を授けねばならぬな…。
 おい、ヒロミもこっちに来い」
 桜の精は広海から離れていたヒロミに呼びかけ、こちらに来るよう言う。
 ヒロミはその言葉に渋々…といった感じでこちらに歩みよってきた。

「まずこれを握れ」
「これは桜の枝…?」
 桜の精から受け取ったのは掌に収まる大きさの小さな桜の枝だった。
 そして広海たちは言われたとおりに桜の枝を握る。
「そうして、こう叫べ!
 『御桜様、バンザーイ!』と!」
「な、なな!?
 恥ずかしいですよ!!」
 元々内気な広海は叫ぶこと事態恥ずかしいのに、
 そんな意味不明なことを叫ぶなんてなおさらだ。
「いいから言われたとおりにしろ」
 今まで黙っていたもう一人のヒロミが広海に冷淡な言葉を放つ。
 どうやら煮えきらない広海に苛立ちを感じているようだ。
 その言葉から計り知れない恐怖を感じ取った広海は、もうやけっぱちになった。
「ああ、もう!分かったよ!
 すればいいんだろ、すれば!!」
 そんな広海を見てヒロミは顔を険しくしながら、自分も掌の桜の枝を握る。


『御桜様、バンザーイ!!』

 丁度二人の声が重なりあう。
 すると眩い光が溢れる……



「な、なんですか…!?これ…!!」
「ほう…」
 広海は驚愕し、ヒロミは感嘆の息を漏らした。

 それまで小さな桜の枝だったのが、広海の手には長身の槍が、
 ヒロミの手には刀が握られていた。

「ふむ…そなた達はそのような形状になったか…。
 奴らは剣と斧じゃったが…まあこの際どうでも良いか。
 それにはワシの霊力が宿っておる。悪霊を貫き、切裂くことができよう。
 通常は小さな枝じゃが、先ほどの言葉を発すればそのような形状となる」
「先ほどの叫びにもちゃんと意味があったんですね?」
 広海はホッとした表情となる…が。
「確かにある。
 じゃが、その枝を持たぬ者…
 つまりそなたたち以外の人間には妖怪たちや悪霊、そしてその武器は瞳に写らぬ。
 よって、人のおるところで悪霊と戦っていたりしたら、ただの馬鹿としか写らぬぞ」
「そ…そんな…」
 桜の精――御桜の言葉にサーと血の気が引く広海。
 悪霊や妖怪たちが出没するのは学校周辺。
 当然ほとんどが人の目につく。
 その人たちが目にするのは、一人芝居をしている少年にしか見えないのだ。
 つまり、自分は馬鹿、変体、キ○ガイと思われてしまうということだ。
「ま、奴らを倒さねば、人間たちが襲われるだけじゃ」
 御桜はニヤリと口の端を上げる。
「兎に角…頼んだぞ。葵広海…」
 そして御桜はふっと姿を消した。





 あとに残されたのは二人の葵広海。
 広海はヒロミに声をかけよう……としたのだが。
「ふん。こんなこと、私一人でやれるというのに…。
 なぜ貴様のような軟弱そうなヤツと組まねばならぬのだ。」
静かながらも広海にキツイ言葉を浴びせるヒロミ。
さすがに広海も頭にくる。
「な…!
 失礼じゃないか!いきなり!」
「いきなりも何もあるか。
 貴様のようなヤツに私の片翼を任せられるか!
 せいぜい足をひっぱらないでもらおう!
 妖怪なんぞに殺されたくないんであればな!」
 それだけ言うと、ザッザッとヒロミは歩き去っていった。

「なんだよ…!言いたいことだけ言ってからさ…!
 お前なんかにボクの気持ちが分かってたまるか…!!
 いじめられ続けて来たボクの気持ちなんか!!」
 このとき、広海は深い憎しみと怒りを彼女に抱いた。




 そして彼もまた歩き去った後の裏庭――御桜は姿を現した。
「やれやれ…。どうやら仲の悪さは奴ら以上だな…。
 果たして奴らと同じように上手くいくかのぉ…?」






―翌日―
「よう、おはよ!広海!」
「おはよ、敬介。」
 登校してきた広海は敬介と挨拶を交わす。
 その後、しばらく話し込んでいたのだが…

 ドカっ

 堂々とした態度で広海の隣の机に鞄を置くヒロミの姿があった。
「なぜ貴様がここにいる…!」
「へぇ、そこは君の席だったんだ。
 ……でも、そんなの浦橋先生から聞けばいいじゃないか。
 ボクには分からないよ。
 ボクだって望んだわけじゃないからね」

 …なんだか一触即発って感じの雰囲気。
 見た目、どう見ても弱気な広海が正面きってヒロミにケンカを売っている
 …そんな光景に敬介や他の生徒たちは目をまん丸とさせている。
 彼が弱気だということは自己紹介の時、誰もがわかった。
 だが、今の彼は獰猛な動物の目をしている。
 今にもヒロミに噛み付きそうな勢いだ。

「そもそも昨日教室へ来てなかった君が悪いんだろ。
 その時だったら席を替えてもらうなりなんなりできたというのに。
 今はもうここはボクの席だ。君に何も言われる筋合いはない」
「貴様…!!」
 ヒロミは怒りで顔を真っ赤にしている。
「ちょ、ちょっと二人ともやめ…」 
 さすがにこれはヤバイと感じ取った敬介は止めに入ろうとしたが…

 丁度SHRの開始チャイムが鳴る。
 それがキッカケでふたりはそっぽを向き合い、席に着いた。
 残されたのは呆気にとられるクラスメイトだけだった。


 …果たしてこれから二人は上手くやっていけるのだろうか?



=あとがき=
第二話。
サブタイトルは「不倶戴天」ですが、どうも魔物祓いの話の割合が高かったですね…。
まぁ、いいか。(ヲイ
因みに先任の妖怪退治者の名前は斉藤千秋、です。
勿論二人とも同姓同名。性別反対。
勿論、元ネタの漫画の名前そのままです。

さて、この主人公たちはそうとう仲悪いです。
ヒロミが広海が嫌う原因はそのまま軟弱で弱い男は嫌いだから。
広海がヒロミを嫌う原因は自分勝手な言い分をするから…です。
まぁ、どちらとも嫌う理由としては納得できるんですけどね。

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