LESSON3 暗雲低迷…

―昼休み―
「おい、広海!」
 敬介は昼休みになるとすぐに身体を広海の方へと向け、彼に話しかける。
 広海には彼が何を喋りたいのか、予想がついていた。
 そしてそれに答えなければならないことも。
「今朝のアレはなんだったんだ?」
 『今朝のアレ』とは、勿論今朝の広海とヒロミの口論、というより口喧嘩のことである。
 やっぱり…と心の中で呟きながらも、問題のヒロミが昼休みになると
 教室を出て行ったので、広海は渋々それに答えた。
「昨日、敬介と別れてから彼女と出会ってね…
 面と向かって悪口を言われたんだよ…」
「どんな風に?」
 興味を持った敬介は、さらに事情を聞こうとする。
 広海としては、こういうことはほっといて欲しいタイプなのだが、
 この学校に来て初めて出来た友達の質問を無下に断ることもできなかった。
「『弱々しそうなヤツ』とか『軟弱なヤツ』とか…」
「なるほどねぇ…ヤツもなかなか特徴を捉えてるじゃねえか」
 敬介は顎を揉んで、ニヤニヤと広海の顔を見る。
「なんだよ、敬介!」
 敬介から出たヒロミを肯定するような言葉を聞いて、広海は声を荒げる。
「なら、お前はそれを否定することができるのか?」
「うっ…」
 敬介の最もな意見に言葉を詰まらせる広海。
 彼女の意見に思い当たるところはある。
 しかし、だからといって初対面の人間に何故あれほどまで
 言われなくてはいけないのだろうか?
 複雑な気持ちが、広海の心に浮かび上がる。
 広海の気持ちを知ってか知らないのか、敬介が口を開く。
「まぁ、そんなに心配すんな。
 あいつの態度は男に対して皆あんなもんだって」
「男に対しては?」
 広海は敬介の言葉にひっかりを感じて、訊ねる。
「なんでか、女子には優しいんだよな。
 んで、1年の女子で結成された『葵お姉様ファンクラブ』って
 言うのが密かにあるらしいぜ?」
「ふーん…。」
 広海は嫌いな者のことには興味なく、ただ曖昧にうなづく。
「兎に角、アイツとは関わらない方がいいぜ。
 まっ、確かに美少女といえば美少女だけどな」
「………」
 もうすでに関わりをもってしまって彼女と魔物退治をします、とは
 口が裂けても言えない広海であった。

 ヒロミについての話はそれきりになり、話題も少なくなり始めた頃、
 広海はポツリと呟く。
「そう言えば、5時間目は体育だっけ…。」
「そうそう、持ってきたか? 体操服?」
「あ、うん。」
 体育会系の敬介は体育の時間が楽しみらしく、うきうきとした表情をしている。
「…確か今日の体育はサッカーだな。
 広海、お前サッカー得意か?」
「得意じゃないけど…好きではあるよ。」
 広海にとってサッカーは本当は得意どころか苦手の部類に入るのだが、
 好きであるということは嘘ではなかった。


―5時間目―

「オラオラ!どけどけぇ!!」
 大声で叫びながら、敬介はフィールドを駆けて行く。
 サッカーボールはまるで敬介の身体に吸い付いているかのように扱われていた。
 あっという間に、ゴール前まで辿り着く。

「行くぜッ!!」
 敬介はシュートを決めようとしていた…
 その瞬間、後方でディフェンスを担っていた広海よりも
 さらに後方で地を裂くような轟音が鳴り響いた。
「!?」
 広海は慌てて後ろを振り向く。
 するとそこには金棒を持った巨体の“鬼”がいた。
 しかしクラスメイトは音が聞こえていなかったようで、
 敬介のシュートは決まり、広海たちのチームは歓声を上げていた。
(アレが御桜様の言っていた魔物!?)
 初めてその姿を見るが、それは禍々しく醜いものであった。
 腹はでっぷりと太っており、顔も蛙をひき潰したような感じである。
 その姿を見れば、誰でも嫌悪感を抱くであろう。
 …と次の瞬間、“鬼”はその巨体とは似つかない跳躍をし、
 広海の目の前にドガンと重々しい音を鳴り響かせ、着地した。
 広海はソレが何だか頭のなかでは分かっているが、心が追いついていないので、
 腰を抜かしガタガタ震えている。
 “鬼”はそんな広海を楽しそうにじぃっと見る。
「キサマ、おれガ見エルノカ?
 …くきゃきゃ、おまえカラ喰ラッテヤル!」
 にたぁ、と卑しい笑みを浮かべるとその金棒を振り上げる。
「あ、あぁ…や、やめ・・・て…!」
 恐怖のせいか、身体だけでなく、声も震えている。
「イイナァ、ソノ顔…!」
(嫌だ、嫌だ、死にたくないよぉ!!)
 心では叫ぶものの恐怖がそれを押さえ、身体も動かなくなっていた。
 “鬼”は舌を舐めると、振り上げた金棒をそのまま広海の脳天を目掛けて振り下ろした。

(もうダメだ…!)

心で叫ぶ広海…とその時、聞き覚えのある少女の叫びが聞こえてきた。
「御桜様、万歳ッ!!」
 ギィィンと鋼鉄を叩く音がする。
 恐る恐る目を開けると、そこにはブルマ姿の少女が立っていた。
 ギギッと“鬼”が振り下ろした金棒を少女が紅蓮色の刀で支えている。

「ヒロミ……さん…。 なんでここに…?」
「あんな轟音を聞き逃すわけが無かろう!
 それより何をしている…!
 貴様は死にたいのか!? 死にたくないのであれば、武器を手にしろ!!」
 ヒロミは広海の方を見て叫び、彼に喝を入れる。
「無理だよ! ボクなんかには無理なんだよっ!!」
 しかし、広海は泣くだけで立ち上がろうともしない。
「貴様…ッ! あとで殴ってやるッ!!」
 ヒロミは広海の方を見るのをやめ、攻防に集中することにした。
「フン…小娘ガ…!
 そいつノ言ウトオリダ! 貴様ラ人間ガおれニ勝ツワケガナイィ!」
「ぐうっ!?」
 “鬼”の叫びと共に、金棒に加わる力が強くなり、ヒロミの足が地にめり込む。
「くきゃきゃ! 非力ダナ、人間!」
「くっ…! その醜い顔を今すぐたた斬ってやる!」
 “鬼”に対し、ヒロミは強気な態度をとるが、このままでは
 やられることは目に見えていた。
 “鬼”はそんなヒロミの強がりをみて、笑い声をかみ殺す。
「クックックッ…モウ少し遊ンでヤッテモいいガ、早クシナイト
 他ノ人間が食ベラレナインデナ、サッサト貴様を殺シテやるヨ!」
「ぐぅ…!」
益々力は加わり、ヒロミの手はだんだん痺れてきた。
そんなヒロミは震えている広海に呼びかける。
「おい! 臆病者、いつまでそこで震えている気だ!?
 このままでは私たちだけでなく、クラスの奴らも殺されるのだぞ!
 貴様はそれでいいのか!?
 私たちがやらなくて誰がやるんだ!!」
「無駄ダ…コイツハ唯震エテいるノガ精一杯ダ!
 シネェ!」
 “鬼”は金棒を握っていない方の左手で拳をつくり、ヒロミの腹部を狙った。
 ヒロミは両手で刀を握っているため、腹部はがら空きだった。
 もし、この攻撃が直撃すればこの“鬼”の腕力から言って、即死だろう。
「くっ…ここまでか…」
 と、ヒロミの声とは別の声がヒロミの耳が拾った。
「御桜様…万歳…」

 ヒュッと鋭い音がしたかと思うと、蒼の槍が“鬼”の目を貫いていた。
 広海が言葉を唱え、槍を“鬼”に目掛けて投げたのだった。
「ぐぎゃああッ!?」
「がっ!」
 “鬼”は情けない叫びと共にのた打ち回り、それによってヒロミは弾き飛ばされる。
「貴様……」
「………」
 ヒロミは広海を見るが、彼に反応はない。
「……ちっ」
 ヒロミは軽く舌打ちをすると、刀を再び構えなおした。

 だが“鬼”は先ほどの攻撃が深手だったらしく、先ほどまでの勢いはなく、
 金棒を杖代わりによろよろと立ち上がった。
「ぐぎぃ…お前タチ覚えテイロ…!
 コノ借りハ必ず返ス…!」
 そんな捨て台詞を吐くと、“鬼”はあっという間に姿を消してしまった。


―放課後―
 広海たちは学校裏の桜の木の前にいた。
「ふむ…なるほどのぉ。
 そやつは恐らく“卑鬼(ひき)”じゃな。」
 ふたりの話を聞き、御桜はぽつりと呟く。
「卑鬼?」
 ヒロミが訊ねる。広海はまだまともに話せる状態ではなかった。
「そうじゃ。 鬼の中でも一番下位の鬼。
 ただ力があるだけの単細胞じゃ」
「あれでも、一番下位の鬼…」
 ヒロミは力を落とし、下を俯く。
 いくら不利な体勢で横から入ったとはいえ、あの鬼にはまったく敵わなかった。
 彼女は自分の無力さにショックを受けた。

 そんな二人を尻目に、御桜は口元に手を当て一人で考え事をしていた。
(二年前はこれほど凶暴な者は出現しなかったはず…。
 魔を祓う力があれば、素人でも退治ができた…。
 これは何かあるのう。
 そしておそらくこの二人だけじゃこのまま続けていくには難しいか…。
 早急に奴らに手伝わす必要があるのう…。)
 だんだん、御桜の顔が険しくなる。
(しかし、こいつらがいつ襲われてもおかしくは無い。
 ふたりならまだしも、一人の時に襲われたら敵わんぞ…?
 …ならば仕方が無いか。 仲が悪いのも、修正できるかもしれぬ…。よし…)
 御桜は一つ大きなため息を吐き出すと、ふたりに呼びかけた。
「ふたりとも訊け。
 そなたらには共同生活をしてもらうぞ」



「「何だって!?」」 
 それまでへこんでいた二人に活気(というか殺気)が戻り、御桜を睨む。
「冗談じゃないですよ! なんでこんな人と!」
「そうだ! 私はこんなヤツと二人きりで過ごすぐらいならこの役目を降りるぞ!」
 今にも噛み付きそうな二人に御桜は少々気後れする。
 このまま放って置いたら本気で役目を降りられかねない。
「まあまあ、まて。
 もし一人の時襲われたらどうする? 今日の戦いで分かっただろうに…。
 そなたらの辞書には“学習能力”という文字がないのか?」
 御桜の言葉に、ふたりは言葉を詰まらせ下を俯く。
 どうやら痛いところを突かれたらしい。
「それに誰も二人っきりとは言っておらん。
 もう二人、そなたらと行動させる」
 広海が顔をあげ、怪訝な表情で御桜を見る。
「それって一体…?」
「二人の“斉藤千秋”――二年前の魔物祓いじゃ。」
 御桜はニヤリと口の端をつり上げていた。




―あとがき―
戦闘シーン…短ッ!
コホン…それは兎も角、弱いですな、ふたりとも…。
というよりは鬼の方が強いといった方が適当なんですけども。
ちなみに鬼・妖怪についてはオリジナルです。
だからあまり当てにしないでください。
一応RPGの「桃太郎伝説」シリーズを参考にしてます。

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