第三話 ぷろふぇっしょなる
小さなバーで、二人の男が向かい合う。
どちらの手にも、小さなカードが何枚か握られている。
机の端に置いてある紙幣、なにかのギャンブルらしい。
「・・・・・・・チェックだ」
片方の、無精ひげを生やし、髪を後ろでまとめているだらしない感じの男が、手の中から一枚のカードを抜き出し、ゆっくりと机に伏せる。
「・・・・・お前の手は単純すぎる」
もう一方の男、−オールバックでサングラスをかけている― は、
ひげの男をバカにするように一笑し、カードを一枚伏せ。
「チェック」
短く言った。
二人の男は、改めて顔を見合わせ、同時にカードに手をかけ、同時にカードをめくる。
「奴隷」ひげの男が言う。 餓鬼のような人々が描かれていた。
「市民」オールバックの男が返す。 ごく普通に幸せな暮らしをしている人々が描かれている。
「・・・・・・・」「・・・・・・・・」
少し間を置いて。
「くそっ!」
ひげの男が、荒々しく机を叩き、カードをばらまく。
「本当に、弱いな・・・・・・ん?」
オールバックの男が、さらに言葉で追い討ちをかけようとした時、慌ただしくかけこんでくる、黒服の男。
「・・・・・そうか、便利屋が・・・・」
黒服の男からの話を聞いて、表情を変えたオールバックの男は、
「悪いな、フォボス今回は勝ち逃げさせてもらう、便利屋がナンバー6をつれてきたらしいのでな」
「お、おい!!」
フォボスと呼ばれたひげ男の抗議は届かない、オールバックの男は、手早く紙幣を掴み取り、ポケットに入れると、黒服と慌ただしく店を出て行った。
「はぁ・・・・」
午後11時
灯は、ユキの手を引きながら、アジトへの帰路についていた。
周りに人気はなく、街灯がまばらに立って、地に光を落としているだけだ。
(そうだよ・・・仕事なんだよ、どうせ依頼人に引き渡さなきゃいけないんだ・・・・やっぱ感情移入しちまって・・・可愛いし)
小舟では、ユキを助けたことは仕事で、依頼人に引き渡さなきゃいけない、ということは・・・・・・・言えなかった。
生まれて16年、一度も彼女などを作ったことのない灯である。
可愛い女の子を前にして緊張したのか、なにも話せなかったのだ。
「灯・・・どうしたの?」
灯が眉間にしわをよせて悩んでいたところに、ユキが優しく声をかける。
「あ、いや・・・・・」
「ご苦労だった、便利屋」
灯の声に重ねるようにして、どこかから、太い男の声が聞こえてきた。
「だ、誰!?」
ユキは不安そうに周りを見渡し、
「大丈夫だから」
灯がそれを諭す。
男は、二つ先・・・10メートルくらい離れた街灯に照らされて立っていた。
オールバックで、サングラスをかけた長身の男だ。
「噂通りの手前だな、便利屋、報酬は口座に振り込んでおいたぞ」
「・・・・・あんたが依頼人?」
「そんなところだ、さぁ、その女をこちらに」
「・・・・・・・・」
灯は言葉を返さない。
「便利屋・・・?報酬・・・?」
男の言葉に混乱するユキ、便利屋とは灯のことか?自分を助けたのはお金のためなのか?やっと逃げ出せて・・・・自由になれると思ったのに・・・・
そんな感情が、ユキを支配しようとする。
「ねぇ、便利屋って・・・・灯のことなの?」
周りに三人以外人はいない、わかりきっていることなのだが。
「ユキ・・・・・大丈夫だよ」
男に聞こえないように、灯は言う。
「どうした、早くこっちに!」
男が声を少し荒げた。灯は、ゆるい口調で言う。
「なぁ、やっぱ契約破棄、ってことにできないかな?」
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