第四話  しょうとつ 

 

「なぁ、やっぱ契約破棄、ってことにできないかな?

「…どういうことだ。」

灯は、ゆるい口調で言う爆弾発言に、黒服の男は眉を潜ませ声を震わせながら問い返す。

灯はこりゃストレートに言い過ぎたかな?と思いつつも両腕を双魔剣<聖(ひじり)>の柄へと動かす。

「なぁ、あんた達ユキをどうするつもりなんだい。」

「ユキ?…ナンバー6に名前をつけたのか。…そうか。そうなのか。」

「なあ、どうなんだよ。…あの船の連中みたいにユキに変なことをするつもりじゃあないんだろうな。」

「君には関係…。」

男の言葉を待たずに灯は剣を抜き放つ。

しかし男は動じず、先ほどまで声を荒げていた時とは別人のごとく冷静に落ち着き灯を見つめている。

「我々は彼女を必要している。…彼女もいずれ我々を必要とする。それだけだ。」

!!、やっぱりユキの力が目当てなんだな。」

「知っているのなら話は早い。」

一気に殺気が辺りを支配していく。

灯のではない。

目の前の依頼人の男だ。

コイツ…できる!!。そう灯が思った瞬間、黒服の男が懐から銃を抜き放った。

 

バン、バン

 

両手の剣がいとも容易く弾き飛ばされた。

「なっ。」

「これで最後だ。…ナンバー6をよこせ。そうすれば報酬の200万ジルドはくれてやろう。」

「・・・・っ。」

灯は目だけを動かし辺りを見るが、逃げ場はない。

少しでも変な動きをすれば黒服の男は自分を確実に撃ち殺すだろう。

…どうすれば。

そう灯が自問していた時、後で脅えながら事態を見守っていたユキが灯の肩に手を乗せると少しだけ悲しそうな笑顔をすると、黒服に向かって歩き出した。

「ユキ!!」

「ありがとう、灯。…でもいいの。これ以上灯を危険な目に遭わせられない。」

「そうか、よく決意してくれた。…ナンバー6。こっちへ。」

黒服の男が左手で銃を灯へ向け、右手をユキへと差し出す。

その手へゆっくり歩み始めるユキ。

「駄目だ、いいのかあそこからやっと抜け出せて、やっと自由になれたんだぞ。」

「あの人たちが、…悪い人とは限らないし。きっと大丈夫、今までそうだったもの。」

「でも。」

「ねえ、灯。あなたは何故あたしを庇うの?。」

「えっ。」

ユキは灯の手を握ると灯の瞳をまっすぐ見つめる。

灯の瞳に映る自分。

灯は自分の事をどういう風に想いながら見てくれているのだろう。

実験体として生み出せられて、小さな檻で出口をさえぎられた部屋に一日の殆どを過ごし、体には実験の後が生々しく刻み込まれている。

ユキは、ナンバー6と呼ばれた少女にとって部屋の外の世界は憧れの別世界だった。

その憧れの世界へと連れ出してくれた灯…。

ゆき…

名前をくれた灯

「ありがとう。」

そう、何とか声に出しユキは黒服の方へと歩み始める。

「早くこい、ナンバー6。」

「………違う。」

ゆっくりとした歩みに苛立ちを見せ始めた男の呼びかけに、ユキは首を振りかぶる

「違う。あたしの名前はユキ。ナンバー6じゃない。」

初めて、生まれて初めて声を荒げた。

「そうか。…こい、ユキ。」

「…はい。」

黒服と灯の間ちょうど真ん中まで歩んだとき、ユキは灯の方へと向き直る。

「さ、…さようなら。………ありがとう。」

そういうと、再び男の方へ歩みなおそうとしたとき。

「いいのか、いいのかよユキ。」

灯の呼びかけに歩みを止める。

「うん、これ以上灯を危険な目に遭わせたくなし。…それに、それに。あたしなら大丈夫だもの。」

「じゃあ、なんで、なんで。なんでユキは泣いているんだよ。」

言われて、初めて気がついた。

自分が生まれて初めて涙を流しているのを…。

 

悲しい、寂しい。

灯と離れるのが…

 

怖い、嫌だ

未知への恐怖。

 

戸惑い、迷い。

生まれて初めて自分の心の中で渦巻く感情の数々。

 

「……いいのか、紫藤 灯。これ以上ユキを庇いたてにするのなら、報酬が手に入らないだけでなく、私と。いや世界を敵に回すことになるぞ。」

「どういうことだよ。」

「ユキを作った奴らは、バルア帝國だ。」

バルア帝國―北の大陸を支配し各大陸へと侵略の手を伸ばす世界最大の侵略国家。

「そして、ユキを連れている限り、奴らは世界の果てまで追い続けるだろう。」

「………。」

「それでも、ユキを庇い立てするのか?。…貴様に一国を相手にユキを護り続ける自信があるのか。」

「戦うことを恐れるな、勝て、自分を邪魔するモノに、そして戦え、大切なモノを守るために。」

「?。」

「アニキが言ってた。紫藤家の家訓。いや、いい男の持論だってな。」

「惚れたのか?、実験体に人工生命体のユキに。」

「わかんねぇよ。自慢じゃないけどこちとら生まれてこの方16年『彼女』とか『ガールフレンド』というものを作ったことが無いからな。…でもよ女の子を泣かす奴は最低だ。漢は女を護ってナンボだ。これもアニキの持論だけどな。」

ユキの歩みは完全に止まっている。

灯と黒服の男との緊張も限界に達していた。

男の拳銃は相も変わらず、寸分たがわず灯の左胸。心臓へと銃口を向けている。

灯も身構え、いつでも男へと殴りかかれるように体を沈ませる。

「…。」

「………。」

「ふっ、合格だ。」

「はっ?」

男はそういうと拳銃をスーツの中へとしまいこむと、タバコをすい始めた。

「ナンバー6、いやユキお前はいい相棒を得たようだ。」

「あんた、一体?。」

「紫藤 灯。今までの非礼をわびよう。…報酬の200万は今日中に口座へと振り込んでおく。それと新しい依頼だ。ユキを西のジグリム共和国領、ケープタウンまで送り届けて欲しい。」

男はそういうと懐から封筒を取り出すと灯へと投げ渡す。

突然の男の態度の一変さに戸惑いを隠せずに封筒を取りそこね、地面に落ちていく。

「詳しいことはその封筒に入っている紙に書いてある。」

そう最後に言うと男はユキを一度だけ、見る。

とても優しい顔で…。

灯達を背に向け、足を歩み始める。

「ま、待てよ。あんたは一体。」

「聞くか?、聞けば後戻りができなくなるぞ。」

「…教えてくれ。」

「アーデリア教、女神新生七元素の一人『雷』の日向 頼音。(ひゅうが らいおん)」

「あんた、坊さんだったのか。」

女神新生七元素―アーデリア教団の教皇直下の戦闘神官として名をはせる7人の騎士と魔法使いの精鋭。

そう灯は記憶していた。

恐らく、この男は銃を媒介にして雷の魔力を発動させたのであろう。

「酒場のフォボスを尋ねろ。『借金の50万ジルトをチャラにして欲しかったら協力しろ』そういえば力になってくれるだろう。」

男は、日向 頼音はそう最後に言うと灯とユキの前から完全に姿をけしていた。

 

 

 

 

 

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