第6話 みっどないとぱぶ

 

からんからん。

「…」

「じゃ、邪魔するぜ…」

酒場の重っ苦しいドアを開けた途端バーテンに睨まれた灯だったが、平静を装って中に入る。

閉じるドアを手で止め、ユキをぎこちない動作でエスコートする。

「ほら、ユ…ユキ。早く入れよ」

「あ、はい…」

最低限の明かり、グラスの中でぶつかる氷の澄んだ音。ピアノでブルースを弾く女性シンガー。

酒を飲む場所、と書いて酒場。当然、客はアルコールと夜の街ををたしなむ大人ばかり。

「坊や、ミルクは置いてないよ」

「ぼ…」

バーテンがあしらう。この空間において、

灯やユキのような子どもは明らかに場違いだ。カウンターに座ったコートの男も、灯を見るなり

「ガキは帰りな」

とストレートな意見。しかし灯は彼に言い返す。

「…俺は便利屋だ。フォボスって人に話がある」

すると、店の空気が変わった。いつの間にかどよめきが生まれ、さっきよりも多くの視線が灯とユキに浴びせられる。

「…えーと、もしかしてフォボスって人…その筋じゃ有名なのかな」

「ねえ…灯、本当に大丈夫?」

「…たぶん、大丈夫。…のはず」

 

「オレに話だってぇ?」

声の主は店の最奥のテーブルに突っ伏していた。

グラスの中から床一面まで、カードがばらばらとまき散らされている。

灯とユキが近づくと、フォボスは起き上がりゆっくりと振り向いた。

「なんだお前ら…お子ちゃまのままごとに

 付き合うひっく、暇はねえよ」

「付き合うヒマがなくても付き合ってもらうぜ。 50万の借金をチャラにして欲しかったら…」

「ぐー」

「話の途中で寝るな!」

テーブルを叩いて激昂する灯。

「はっ!?…で、チャリがどうした?」

「チャリじゃなくて…チャラ。あんた、頼音って坊さん知ってるだろ?」

その名前を聞いて、フォボスの顔が変わる。

「…あぁ、お前が便利屋か」

「50万をチャラにして欲しかったら協力しろ。

 …ユキをジグロムのケープタウンまで送り届けて欲しいって坊さんが」

「ストップ」

灯の口元に手を持ってくるフォボス。

「周りの耳がある。表に出な」

 

酒場から少し歩いた波止場。ユキを乗せた船が停泊していた場所でもある。

タバコに火をつけ、紫煙をくゆらすフォボス。

「オレは借金がなくなるなら文句は言わねぇ。 ケープタウンまででいいなら協力してやる」

「本当か!?サンキュー!」

「ただし!」

タバコを口から離し、灯を見据える。

「ちっとばかし確認せにゃならん事がある」

「?確認って何を」

「オレはあくまで協力者であって、実際にケープタウンまでその子を連れてゆくのはお前なんだ」

「…ああ」

「お前が成功しなかったら報酬が出ない」

「そうなるな」

「そうなったらオレの借金は返せずじまいだ」

「…」

「というわけでだ」

フォボスの体が灯に肉薄する。ひやりとした何かを背筋に感じた灯は慌てて飛び退る、

フォボスはいつの間にかタバコではなくタバコと同じくらいの大きさの短剣を、タバコと同じように持って突き出していた。

「カンは働くな。バネも鍛えられてる」

「…な、何だよ」

「灯!」

フォボスは短剣を口にくわえる、短剣の先端はタバコとそっくりに赤く燃え光りだした。

「離れてろ、ユキ。俺は平気だから」

目をフォボスから離さず、<聖>を抜き放つ灯。

「なに、そんなに心配しなさんなお嬢ちゃん。

 このガキの実力調べさ。今回の依頼を絶対に成功させられる程の腕前なら協力するがな、

 ダメダメな奴なら…」

言いながら再び短剣<ハイドライター>を構える。刀身が闇夜の中で赤々と炎をあげる。

「根性焼きを喰らわすまでさ」

 

 

 

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